強さの実感

 同時刻、民間訓練所にて。


「……フッ、シッ」


 俺は今だに、民間の訓練所で訓練を行っていた。右拳を突き出し、左足で蹴りを入れる。相手がいないのもあり、その姿はまるで演舞。もし昔の俺がいたら、あの時の三山のようだと思ったに違いない。


(……ハハッ)


 ひと時も忘れたことがないあの憎き男と同じようなことをやってしまっていることに、自分への呆れの感情が芽生える。だからと言って、この訓練を辞める気はない。こうしないと強くなれない。生産性のないプライドなど紙屑と同じだ。


「……チッ」


 だが、そんな生産性のないプライドを捨ててまで行っていた訓練も、意味のないことになってきていた。


(いろいろ試してみたが、これも……)


 強くなっている実感がない。そう感じた後も、いろいろと形を変え、訓練をしてきた。


 筋トレをしてみたり、1人でパンチやキックをし続けてみたり、スマホで見つけた訓練方法を試してみたり……


 それでも、訓練している苦しさがない。歩くのとなんだ大さないように感じてしまっていた。


 いつもやっていた仮想敵トレーニングはまだマシなのには変わりないが、牛や桃鈴才華以上の敵が思い浮かばない。やはり実戦以上の成長の場は無い。


「……せめて、強いインパクトを残してくれる相手がいたらな……」


 チェス隊と接触すれば一瞬で解決するのは間違いないが、やるならチェス隊に良い印象を持たせた後が好ましい。


「何か、好印象を与えるいいイベントは――――」


『緊急速報!! 緊急速報!!』


「うおっ!? びっくりしたぁ!!」


 自分のスマホから急な緊急速報が鳴り響く。


『神奈川本部付近にて、反社会的組織と思わしきテロリストたちが攻撃を開始。繰り返す、神奈川本部付近にて――――』


「ああ……?」


 神奈川本部に攻撃? バカなことを、全国でも警備力がトップクラスの神奈川派閥。さらにその本部を攻撃するなど、自殺行為に等しい。いくら実行犯が複数人いるとしても、本部の中で待機しているチェス隊メンバーがすぐに対処するはずだ。


『現在、黒のビショップ、黒のナイト、黒のポーンが交戦中も苦戦の模様。近くにいるチェス隊はただちに向かってください。繰り返す――――』


(何? そんなにチェス隊がいて止められないのか?)


 チェス隊は1人だけでも、圧倒的な戦力を誇るチームだ。1人だけでもそこら辺のハイパーぐらいなら倒せるし、複数人集まれば、多彩なチームワークを発揮する。そんなチェス隊が3人もいながら、苦戦するのはかなりの異常事態だ。


(……それだけ敵が強いってことか?)


 強い敵がそこにいる。そう考えただけで、自然に体が動いた。


「行くぞブラック」


「ワン!!」

 

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