石像回遊、その真骨頂
「行くんだなー! みんなー!」
日菜はエメラルドグリフォンに飛び乗り、上空から大きな声で、石像たちに聞こえるように叫び、右手の人差し指と親指を輪っかのような形にし、口に咥え込んで口笛を鳴らす。
「うわ……多勢に無勢ですよこれ……」
それを皮切りに、地震と間違えてしまうほどの地響きとともに石像たちが動き出す。
その数、ぱっと見だけでも50以上。ありとあらゆる生物の形をした石像が、射殺さんばかりの眼力を放ちながら向かってきた。
「まずは定石通りにっ……」
あちらの攻撃できる射程圏内に入る前に、オーラナックルで遠距離から攻撃する。もともとは、オーラナックルもかなり広い範囲攻撃。これである程度は削れるはず。
私の予想通り、オーラナックルはその広い攻撃範囲により、無数の石像を破壊することに成功した。したのだが……
(数、多っ……)
石像の数があまりにも多いのと、私のオーラの性質として、表面的で貫通力がないことが災いし、石像の軍団を数を減らしたようには見えない。
(これでもスキルの相性的には有利なんですけど……)
そう考えている間にも、私はオーラによる攻撃を続けた。
オーラナックルを放ちながら、オーラを足に溜め、オーラキックを放ちながらオーラを拳に溜める。神奈川での彼との戦いにも使用した無限コンボで、どんどん頭数を減らしていく。
ただ、石像たちは人間ではない。相手が人間だったら、攻撃を何度も受けていることに動揺し、少しは足を止めてくれる。
しかし、同じことを言うようで悪いが、相手は石像。意思がない日菜のマリオネットだ。意思がないということは、もちろん恐怖心もない。私の攻撃を何度受けようと、向かってくる足は止まらなかった。
「包囲なんだなー!」
「結局止められず……ですか」
ついに石像たちは私のすぐそばまで接近し、包囲することを許してしまった。どうにか抜け出せないかと目を凝らすが、虫1匹抜け出せそうにない。
「はぁ……やるしかありませんか」
「行くんだなー! 突撃ー!」
その瞬間、私を包囲していた石像たちが一気に遅いかかってきた。
(なんとか抜け出すしかない……!!)
「オーラバースト」
私はオーラバーストをすぐさま発動。襲いかかってくる石像たちを粉々に破壊するが、それだけで全滅するほど石像の軍団は少なくない。
(1回で倒しきれないのなら、何度でも発動するだけです!)
間髪入れず、オーラバーストを再発動。石像が向かってくる順から粉々になっていく。
しかし、私はオーラバーストを使うことに集中しすぎて、肝心の日菜本体に意識を向けることができなかった。
「隙ありだなー!」
日菜はエメラルドグリフォンに乗り、上空から急激に滑走。そのままエメラルドの爪で私の右肩を切り裂いた。
「ぐっ……!?」
その衝撃でオーラバーストも再発動できず、ついに石像たちの行動の自由を許してしまった。
「ぎっ……が」
そこからはもうやられっぱなしだ。
「ぐうっ……」
仏像からは腹へのパンチを。
「痛づぁ……」
猿型の石像からは鋭い爪での切り裂き攻撃を。
「ひぎぃ……」
鳥型の石像からはそのくちばしでの一撃を。
絶えぬことのない波状攻撃。まるで石像たちが回遊しているかのよう。
これこそが、日菜のスキル、石像回遊の名前の由来。終わることのない――――
石像回遊。
「うがっ……ぎゃ……」
「どうするんだなー! リタイアをお勧めするんだなー!!」
「ぐっ……ま、まだ……」
日菜がリタイアを勧めてくれたが、私はそれを拒否する。
私はまだやれる。中途半端なところで止まってはいけない。日菜に勝負を挑んだのは、もともと、自分の限界を試すためなのだから。
それに……彼なら……
こんなところで諦めたりはしない。
(だから……まだ……まだ!!)
私は自然と拳を握りしめ……
無意識に、拳の中で回転させ始めた。
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