ダッシュアタック

 走るためにはどうすればいいのか、そんなものは簡単だ。足を強く踏み込む。それだけでいい。


 速く走るためには、フォームや腕の振り等、足以外を使って速く走るための方法も確かに存在する。だが、やはり結局は足。足の強さ、使い方で自分の速さが決まると言っていい。


 だから……


(私も足を……有効に使う!)


 足の指の先がどんどん熱くなる。オーラがそこに集まっている証拠だ。


 何を隠そう、私は走り出した瞬間からオーラを足先に溜め続けていた。オーラビームと違って、彼のメモを見て訓練していた時に発見できた偶然の産物のため、足先にオーラを溜めることに慣れていないので、少し時間はかかったが、日菜が私の走りに驚いてくれたおかげで、隙が生まれ、充填完了までの時間を稼いでくれた。


「これで……」


 私は足先にオーラを溜めた状態を維持し、足を強く踏み込む。


 その時、オーラビームの要領で、足先に溜めたオーラをジェットのように地面に向けて噴射した。


「どうだっ!!」


 その勢いを利用し、私の体は一気に加速する。まるでジェット機のように、今までの私の最高速を遥かに超えた速度で日菜の懐に潜り込んだ。


 名付けて、オーラブースト。


 ……もちろん、彼のスピードに比べれば、たいしたものでは無い。だけど、見た目だけでも、少しでも彼に近づけたのなら。


 私は大きく腕を振りかぶり……


(私は救われるから)


 もう一度、釘を打ち込むハンマーのように、日菜の腹に突き込んだ。









 ――――









「……ひより、すごい」


 私、旋木天子は目の前で起きているひよりの戦いぶりに、心を奪われていた。


 試合前、私はいい勝負をしてほしいという思いを胸に抱きつつも、結局は日菜っちが勝つだろうと高を括っていた。


 しかし、今見ているこの戦いはどうだ。白のルークと黒のポーン。階級で言えば天と地の差。アリとカブトムシ。ウサギと怪獣の戦いだと思っていたこの試合。ひよりは日菜っちと同等……あるいはそれ以上の戦いを繰り広げていた。


 前のひよりとは明らかに違う……いや、違うわけではない。本質のひよりは変わっていない。


 なんだか……ひよりの体の中に、誰かがいる感覚。


(……大阪派閥で何かあったの?)


 その質問にそむくように、ものすごい加速で日菜っちに近づいたひよりの一撃をもろに受け、大きく吹っ飛ばされた。


「なっ……!? いや」


(お腹の力を抜いて、受けるダメージを最小限に……それに仏像をバリケード上に配置して衝撃を流した!)


 日菜っちは一撃をもらう寸前に、仏像を自分の周りに大量に出現させ、受け止めさせつつ、後ろに吹っ飛んでいく自分ごと仏像を動かすことで、ダメージを最小限に留めていた。


 そして、後ろへの吹っ飛びが止まると同時に、訓練所の地面がボコボコと揺れだす。


(来た……!! ひより、ここが踏ん張りどころだよ……!!)


 ここからが正真正銘、白のルークの本領発揮。



「ひより……なんであたしのスキル名が石像回遊せきぞうかいゆうなのか……忘れたわけじゃないんだなー?」


 

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