ご対面
ギリギリの状況となった俺が使用した策。それは安全な隠れ場所でも、秘密の脱出経路でもない。
(やぶれかぶれのかくれないんぼだ!)
突発的に考えついた作戦としては、だいぶいい線いっているのではないだろうか。この客人作戦。こうすることによって、袖女の部屋にいることに説得性を持たせられる。
「……どなた?」
当たり前だが、俺が何者か聞いてきた。
「あ……えっと……あ、ああ、あ、浅間さんの部屋にお邪魔させてもらっております。田中伸太と申します」
(あっぶねー……何とか思い出せた……)
半分以上忘れていたが、袖女の苗字だけは耳にしていたのが功を奏し、何とか答えることに成功する。
「…………」
(なんだ……?)
次はじっとこちらを見つめ出す。なんだこの女は、男が珍しいのかは知らないが、初対面の相手に対してこの反応は無礼すぎる。
(こっちが下手に出てるからっていい気になりやがって……こうなったらいっそのこと……)
「……はわ」
「ん?」
「は……」
「はわわわわゎゎゎゎああぁぁぁぁ!!!!」
台風女は急に奇声を上げ、ものすごいスピードで外に出て行ってしまった。
「……なんだったの?」
「さぁ……」
意味不明だが、何とか窮地を脱したようだ。
――――
「あ、あああ……」
ほんの些細な興味だった。
外で夕飯を終えて、自分の部屋に帰るために廊下を歩いていたら、ひよりの部屋からかすかに物が落ちるような音が聞こえた。それだけなら何ら問題はなかったのだが、それに続いてだれかと話しているような声が聞こえたから、気になってひよりの部屋に入ってしまった。
だって、あんなに元気がなさそうだったひよりが誰かと話しているのだから。気になるに決まってる。
問題はその相手だった。
「彼……かぁ……」
彼、田中伸太は、私のライバルと言える存在である沙月ちゃんを完膚無きまでに叩きのめした。
そんなの戦いたくなるに決まってる。黒のビショップとして、彼という壁に全力でぶつかっていきたくなる。
そんな彼が、目の前に現れたのだ。
訓練所で初めて感じた感覚が再び引き起こされる。体が疼いて、熱く暑く火照っていく。可能なことなら今すぐに戦いたい。だけど彼はひよりのお客さん。先輩の私が無礼なことをするわけにはいかない。理性と本能が戦った結果、私が選んだ答えは逃走だった。
「はわわわわゎゎゎゎああぁぁぁぁ!!!!」
踵を返し、スキルも使って自分の部屋に逃走。自分の部屋のドアに鍵をかけ、帰ってきたばかりの真っ暗闇の部屋にへたりと座り込んだその瞬間、私はとあることを考えついてしまった。
「……後日手合わせしてくれませんかって……お願いすればよかったぁぁ……」
私は激しく後悔した。
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