結局、食べないんですか?

 あの台風のような女がいなくなったことがわかると、俺はほっと一息つき、その場にへたり込む。


 今回ばかりは本当に駄目かと思った。午後7時に帰っただけなのに、まさかこんな事態になるとは思わなかった。


俺は改めて、午後7時には袖女の部屋に来ないことを心に決めた。


「……あの」


 すると、袖女が俺に声をかけてきた。


「どうした?」


「……やっぱり、私の家に来るのはやめておいた方が……」


「……かもな」


 だが、バレる危険性は袖女の部屋だろうが、どこかの部屋を借りようが変わらない。俺はそれを伝えると、袖女が疑問の声を上げる。


「なんでですか? 私の部屋に来て変なリスクを負うよりも、マンションかなんかを借りた方が……」


「お前が俺のところに来るまでの道を尾行される危険性がある。むしろそっちの方が危ないぞ」


 そう答えると、袖女の動きが止まる。


「どうした?」


「……その、私のあなたのところに行くっていうのは……」


「え? だってご飯作ってくれるんだろ?」


 自分で言ったくせに何を言ってるんだ。


「…………」


 それを聞いた袖女は顔をうつむかせて沈黙する。


 今更、自分の言ったことを後悔してももう遅い。こいつの発言は俺の耳にインプットされているのだ。あいにくと袖女のうつむいている姿を見ても何も感じない。何ならざまぁみろという感情が芽生えてくる。


「ちなみに撤回はうけつけんぞ? 明日の朝から神奈川のキングになるまで、ずっと作ってもらうからな」


「……っ! あーもう!! わかりましたよ! やればいいんでしょやれば!! あーやってあげますよ作ってあげますよ!!」


 ようやっといつもの袖女に戻ったようだ。ついさっきまでのしおらしい感じも新鮮で悪くはないが、袖女と言えばコレって感じがする。


「あなたも覚悟してくださいよ? 外食になんて絶対いかせませんからね!」


「あーはいはい。その飯が店よりも美味かったらな」









 ――――









 その日の夜、ベッドにて。


 現在時刻は午前2時、もう寝る時間だが、私の中の高ぶる思いが目を閉じ、意識を落とすことを拒否していた。


「やったっやったっやっ……た……!!」


 彼が私の料理を食べてくれる。たったそれだけのことで、私の心は今にもダンスを始めそうなほど、喜びの感情に満ち溢れていた。


(いっちょ、ここで良い所を見せてやります!)


 神奈川に彼が来てから、良いところを1つも見せれていなかったが、私の唯一と言っていい長所である料理を使って、良いところをバッチリと見せて魅せる。


「明日の朝……」


(朝ご飯……朝ご飯といえば……)


「あ……」


 私はとあることを思い出し、クスリと笑う。


「明日の朝は……アレにしますか」


 献立が決まった。





 

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