ブラック単体で

 ブラック強化のために用意したこの日。俺は確かな成長を感じていた。


「ブラック! 今だ!」


 俺はブラックに声をかける。すると、ブラックはその小柄な体をうまく使いこなし、機敏な攻撃で尻尾の刃で斬りかかった。


「っち!? なんだこの変な犬っころ!?」


 黒い犬が急に尻尾を刃にして攻撃してきたことに、犯罪者も驚いているようだ。


 それもそのはず、ブラックは大阪派閥にしかいないスキル持ちの動物。人間以外にはスキルがつかないという世界のルールを破った存在なのだから、大阪派閥に行ったことのない人間からしたら未知の存在なのだ。


「グルアァ!」


 最初の一撃は回避されてしまったが、ブラックは空中でくるりと回転。地面への衝撃を緩和し、足の負担を最小限にして着地した。


 さらにそれだけではない。着地した瞬間、助走をつけずに相手に向かって勢い良くジャンプし、追撃をしようとしたのである。


 普通に考えて、助走せずジャンプすると、ブラックの身長からして飛距離が足りないと考えたが、思いのほか飛距離が伸びる。おそらくブラックの体重と筋力がうまくマッチした結果だろう。


 そうして射程圏内まで近づくことができたブラックは、尻尾の刃で攻撃する。ノータイムで次の攻撃を仕掛けたことにより、敵は背中をがら空きにさせている。これで攻撃が入らない方がおかしい。


 そしてその予想は当たり、ブラックの攻撃は無防備な背中を切り裂いた。


「うぐぅ!?」


 その一撃をもらい、犯罪者はついに力尽き、その場にバタリと倒れた。


「良くやったぞブラック!!」


「ワン!」


 俺は近寄ってきたブラックの頭を勢いよく撫でて褒める。


「ついに独力で敵を倒せるようになるとは……!」


 犯罪者狩りを初めて4時間後、少し声かけをしたとは言え、ついに俺の力を借りず、独力で犯罪者を倒すことに成功した。


 犬が人間に勝つ。それを可能にするのは並大抵のことでは不可能。これは俺の戦いを間近で見ていたブラックなればこそ。実戦でそれを試し、それをものにしたのだ。


(見ていたからとは言え、いきなり実戦で試して成功なんて、誰しもが出来るようなことじゃない……)


 おそらくだが、大阪派閥にいたころに兵士としての訓練を行っていたのだろう。でないと、初めてで犬があんなに機敏な動きができるわけがない。


(事前に訓練されていたのがよかったな……)


「さ、もう日も沈むし、一旦袖女の部屋に帰るか」


「ワウ!」

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