ブラックと一緒に

 ブラックと一緒に朝ご飯を終え、ふと喫茶店を見渡すと、いつも来ていたおじいさん2人が来ていないことに気づいた。


「マスター、いつもの2人は?」


「お仕事らしいです。なんでも面白い新人が入ったとか……」


「ふーん……」


 俺はその言葉に少し疑問を覚える。あの2人は明らかに定年だ。仕事できるような歳ではないと思ったが、俺の思い違いだったのだろうか。


「お2人はこれからどちらに?」


 しっかりとブラックをお客の1人と捉えているところに、マスターの人の良さが垣間見える。いずれは神奈川派閥と東京派閥は戦争させる予定だが、マスターは死んで欲しくはない。


(個人的にマスターだけ守るか……?)


 思わず自分の世界に入りかけたが、そのマスター本人に質問されていることを思い出し、その考えを捨てて、マスターとの話に集中する。


「今日はこの後、慈善活動でもしようかなと……」


「ワン!」


 ここで言う慈善活動とは、前日に行った犯罪者を捕まえる活動のことだ。正直にそれを言ったらマスターに止められかねないと思ったので、慈善活動と言葉を変えて伝えた。慈善活動には変わりは無いため、嘘はついていない。


「それはすばらしい。頑張ってください」


「ありがとうございます」


 その後も少しマスターと話し、喫茶店を後にした。









 ――――









「さて……」


 俺は袖女の部屋から盗み出した犯罪者リストを開き、どこから手をつけるか考える。


 昨日もそうだったが、犯罪者と戦う事は簡単でも、見つけることが難しい。犯罪者リストの写真と通行人の顔を見比べて判別したり、目の前で起こったひったくり等の軽犯罪を見過ごさずに捕まえたりして、かなり苦労した。


「……お?」


 そんな時、長身の女がこちらに向かって猛ダッシュしてきた。後ろで必死に追いかけているおばさんを見るに、長身の女はひったくり犯なのだろう。


(ラッキー)


 こんなに早く犯罪者に出会えるのは僥倖だ。早速、俺を押しのけて逃げ出そうとする長身の女の腹に拳を撃ち込み、気絶させようとする。


「ぐっ……!? このガキ!!」


 ただ長身の女もそこそこ運動経験があったらしい。俺の拳によろけるも、かろうじて耐え、俺に向かってパンチを繰り出す。


「ブラック」


「ワウ!」


 しかし、俺はすぐさまブラックに指示を出し、俺と女の間に割って入る。そのままブラックは尻尾を刃に変え、長身の女の手首を切り落とした。


「ひっ……がああぁぁぁぁぁぁ!!」


「うるさい」


 その痛みに長身の女は大きな声を出すが、俺が蹴りを頭に入れると、そのまま地面にゆっくりと倒れ込んだ。


「よし……逃げるぞ」


「クウ」


 犯人を捕まえることには成功したが、手首を切り落としたことによりかなりの血が地面に付着してしまった。これでは俺がこの女を殺してしまったと誤認される可能性がある。信用を得ることは難しいが、崩れる時は一瞬だ。


 神奈川からの信用度を維持するため、長身の女はそこに放置し、大きな騒ぎにならないうちに離れた。


「よし……ここまで離れればいいか……ブラック、今日はお前に積極的に動いてもらうからな」


「ワウン!」


 今回、ブラックを連れてきた目的は、実戦慣れさせることだ。


 前々から思っていたことだが、ブラックがまともに戦ったのは、大阪派閥で同時に3体の十二支獣と戦った時のみ。それ以外ではまともな実戦経験がない。


 これからの戦いにおいて、俺がブラックを守りきれなくなった時、ブラックを守るのはブラック自身だ。その時に対処できず、ブラックを失うのは俺にとっても痛手。貴重な戦力となり得るかもしれない存在を簡単に手放すのは惜しい。


「今日はブラックに強くなってもらうからな!」


「ワン!」


 ブラックは俺の問いかけに、力強く吠えて答えた。

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