戦いとは
「ふふふ……」
試合開始の合図とともに、一気に突っ込んでくる可能性を考え、王馬の動きを注意深く観察していたが、王馬は動かない。このことから、身体能力を強化するスキルではないことがまずわかった。
(まず、情報を1つゲット……よし、この調子で観察しながら……)
「私のスキルは力の方向、あらゆる攻撃を別の方向へ流すスキルです」
「……はぁ? 何を言っているんだ?」
急に飛び出た爆弾発言。その発言に俺は一瞬思考を放棄してしまう。
(いや、違う! これも作戦か?)
俺に偽のスキル情報を与え、迷いを与えると同時に、本当のスキルの能力で不意打ちを与える作戦。そう考えると、いきなりのスキル情報開示も納得ができる。
「お前バカか? 何のつもりだ」
「何のつもりもなにも、あなたのような下民にハンデ無しと言うのはいささか不公平でしょう? なのでスキルをお教えしただけですわ」
その余裕の態度に、観客スペースからは声援が湧く。
(なんでこれで盛り上がるんだ……スキル情報を自分で開示した間抜けなだけじゃん)
王馬のスキルを知っているであろう観客たちが、ここまで湧いていると言う事は、今言ったスキル情報は真実なのだろう。なんたる間抜けだ。
(これで勝ったらかっこいいんだろうけどなー)
残念ながらそれは起きない。今から王馬に降り注ぐのは、勝利ではなく、完膚無きまでの敗北だ。
「さて……見せつけるのではなく……」
俺は片足を前に出し……
「魅せつけにいこうか」
王馬の後ろに回り込んだ。
「なっ……消え!?」
「まぁ落ち着け」
そして、王馬の肩に手を置いた。
「……っ! なっ、バカな!?」
それに対して、王馬は一気に前進、俺との距離を話した。
(袖女とほぼ同じ反応だな……)
俺からすれば、いつも通り反射を使い、後ろに回りこんだだけなのだが、どうやらやつには違って見えたらしい。王馬の額をつたう汗が、それを物語っていた。
「……汗がでてるぞ。大丈夫か? ハンカチ使うか?」
俺はポケットからハンカチを取り出し、それを王馬に見せる。
「……お心遣い感謝いたしますわ、ですが、弱者からの贈り物はいりません」
王馬は自分の服のポケットからハンカチを取り出し、額ひたいの汗を拭う。
「……まぁ、神奈川本部に招待されるだけの実力はあるようですわね。そこは評価してあげましょう」
このやりとりをきっかけに冷静さを取り戻したのか、口調もですわ口調に戻っていた。
「さっきの捉えられないほどの動き……おそらくはそれを上に評価されたのでしょうが、このわたくしはその程度の速度を出せる相手にも、過去容易に勝利しています……もちろん、それ以上の速度の相手にも」
そう言いながら、王馬は観客スペースの方に一瞬目を向ける。俺もそれに釣られ、王馬の向いた方を振り向くと、そこには中に浮かぶ4人組がいた。
(袖女もいるな、ということは残りの3人もそれ相応の実力者……)
袖女がいるのは想定内。あいつのことだ。今日も訓練所にいるだろうなとは予想していたし、どうせランキングで袖女にも知られるのは必定。今日見られようが見られまいが、ぶっちゃけどうでもいい。
(ん? あの女……どこかで見覚えがある)
それよりも気になったのは、残りの3人のうちの1人。青い髪に活発そうな顔つきをした女。その雰囲気は桃鈴才華を彷彿とさせる。
(どこだったか……)
見覚えのあるあの女のことを思い出すため、腕を組んで考え込む。
しかし、俺が立ち止まった絶好のタイミングを逃すほど、白のビショップは甘くない。
「舐めた真似を!!」
王馬は急に、拳を地面に叩き込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます