ビショップの攻め
「……あ? 何やってんだお前?」
「……自分から攻めるのはあまり好きでは無いのですが……まぁ、いいです。私を前によそ見した罰ですわ」
王馬の拳を中心に、音を立て地面が割れ出し、瓦礫をいくつも作り出す。さらに、割れた地面から生み出された瓦礫がゆっくりと浮かび上がり、空中でピタリと止まった。
「受けて良くてよ」
「おー……」
王馬が指をこちらに向けると、浮かんだ瓦礫こちらに向かって飛んできた。
(おっそ……)
――――
私は言った。彼は勝てると、勝利すると。どんなに圧倒されようと、どんなにボロボロになっても、最後には彼が立っている。私はそう確信していた。
確信していたのだが……
(まさか……ここまで差があるとは……!)
私の目には、彼が沙月先輩の攻撃を余裕の表情で回避している姿が写し出されていた。
「おお! あの沙月先輩が攻撃に移り始めましたよ!」
「……あの人、いい動きする。最初の速くて見えなかった」
里美と紫音の2人には、この戦いは互角のように見えるらしい。ただ、彼の本気を知っている私にはわかる。彼があの程度の強さなわけがない。本気になれば、後ろに回り込んだのタイミングで特殊ガラスを木っ端微塵に破壊するほどのパンチを繰り出せるのだから。
圧倒的。その一言しか言葉が出てこない。
「…………」
彼の異質さを感じたのか、いつも活発で喋り続けている旋木先輩が黙りこくって訓練所の中を見つめていた。
「……でも、このままじゃ勝てない」
紫音の言うとおり、沙月先輩には力ダイレグのション・方向オブ・フォースがある。彼の打撃攻撃は通用しない。旋木先輩のように、絡め手を使わないと、いくら彼であろうとどうしようもないのだ。
――――
「ほっ! よっ! はっ!」
腕を組んだ状態で、次から次へと向かってくる瓦礫を回避していく。
(うーん……そろそろ飽きたな……)
あれくらいで動揺の色を見せ、やっと攻撃をしてきたと思えば何の変哲もない瓦礫をノロノロ飛ばすだけ。
(やっぱり、あの時感じた威圧感のなさは間違いじゃなかったな……)
あの時感じた威圧感。俺は威圧感の大きさに驚いたのではなく、そのあまりの威圧感のなさに驚いたのだ。強者特有の溢れ出るオーラがない。チェス隊の中でも弱い部類、白のポーンあたりかと思ったほどだ。
(だから、白のビショップって聞いた時、自分の耳を疑ったぞ……)
俺はそう思いながら、瞬間的にスピードを上げ、王馬の目の前に移動する。
俺の感覚だとただただ移動しただけなのだが、王馬や観客たちから見れば、瞬間移動したかのように見えただろう。
「ほっ!」
手を組んだまま蹴りを1発打ち込む。しかし、それは届くことなく弾きかえされ、その衝撃で少し後ろに下がった程度だった。
「ほー……」
「なっ! また……!」
王馬は今更俺が目の前にいることに気づいたらしい。スキルは強力なのに、何と言う基本スペックの低さだ。袖女の方がまだ基本的な体のスペックは上だった。
「また変な瞬間移動……! ですが、何度やろうと――」
「もう飽きた。終わりにしてやる」
こいつはスキル頼りの一辺倒な女だ。少しの間遊んでみたが、途中で絡め手を使ってくることも、何か別の攻撃方法を用意しているわけでもない。戦ってきて1番つまらないヤツ。
それにスキルも、俺の反射の上位互換のような性能をしているのにこの弱さ。訓練不足と工夫不足が面白いぐらいに穴になってしまっている。せっかくの強力なスキルが可哀想だ。
それに、攻略法ももう見つけた。
「さぁ、もうだいぶ魅せつけられただろうが……お前は特別だ……さらに魅せつけてやるよ!!」
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