戦士とは

 訓練所に行くのに俺が先導した場合、なぜ場所を知っているのかと怪しまれるため、俺はわざと王馬よりも一歩後ろを歩いて、ついに訓練所の入り口にたどり着いた。


「うおっ……!」


 袖女と早朝に来た時とは別の場所なんじゃないかと思うほど、訓練所は様変わりしていた。


 その原因は圧倒的な観客の数。女たちが所狭しと敷き詰められ、俺たちの戦いを今か今かと心待ちにしていた。


 そして、俺たちがきたことにより、訓練所の観客たちはヒートアップ。大歓声がこの世界を支配する。


(いや……俺たちへの歓声と言うより、白のビショップへか?)


 その歓声は全て王馬に向いていた。それに少しの少しの嫉妬を覚えつつ、へ、そこだけモーセの割れた海ように、きれいに人がいない道を歩いて行く。


「……どう? 覚悟はできまして? 今なら特別に私への土下座で許してあげても……」


「変にダベるな、熱が冷める」


 道を歩いている途中、王馬は許す条件として土下座を要求したが、俺はそれを拒否。これで完全に敵対関係が完成した。


「ああ、そう。男のくせに生意気ですわね」


「ありがと、それだけが取り柄なんだ」


 そして……訓練所に入った。


「さぁ……魅せつけてやるよ」









 ――――









「おぉー! やってるやってる!」


 私たちは数分をかけ、訓練所の観戦スペースにたどりついた。観戦スペースはすでにもうギチギチで、ジャンプでもしないと訓練所の中を見れないと思われたが、天子先輩がスキルでうまく風をコントロールし、私たちを乗せて上に上昇、見事に風のマットを作って見せた。


 もちろん、周りに風の影響が及ばないようにしていた。


「よし! これで見えるね!」


「さすがです先輩!」


 天子先輩の神技に、里美を目を輝かせる。おいおい、注目するのはそこじゃないぞ。


「里美……今は、対決に注目」


「はっ! す、すみません!」


「あやまることじゃない……」


 私の思っていたことを紫音が代弁してくれた。紫音は無口だが、思った事は抵抗なくズバズバ言っていくタイプだ。こういう時、その性格は非常に生かされる。


 風のマットで上に上げられ、ついに訓練所の中身があらわになる。その中にいたのは、余裕の表情でその場に立つ沙月先輩と


(なんでいるんだぁぁぁぁぁぁ!?)


 いつもの余裕そうな表情をした彼がいた。


(いや、なんで!? は!? どーいうこと!?)


 私は混乱を隠せなかった。彼がここに来た理由も、沙月先輩とやり合うことになった理由も全くわからない。神奈川のキングになると言う目的自体は聞いていたので、近いうちに神奈川兵士として会うことになるとは考えてきたが……


(……いや、わからないことをいつまでも考えても仕方ない。今は神様が与えてくれたこの機会を生かすとしましょう)


 こうなった経緯は本当にわからないが、私の妄想を彼が現実に変えてくれたのだ。この機会を逃さず、しっかり観察して己の糧にするとしよう。


「へー! あれが田中くんかぁ!」


「普通……って感じですね」


 旋木先輩と里美がそれぞれ言葉を述べる。2人の表情や発言を見るに、彼が勝つことなど微塵も思っていないようだった。私はその見方に少しむっとなる。


(……彼は勝つのに)


「……でも、なんか凄そう」


 しかし、紫音は彼に期待を寄せるような言葉を放った。さすが同期、見る目がある。


 私はそう思いつつも、訓練所から……彼から目を離さずにいた。

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