プライドバトル

「……聞こえませんでしたわ、もう一度言って下さる?」


 俺が言葉を放った瞬間、王馬は君の悪い笑顔を顔に貼り付け、俺に再び言葉を放つことを求めてくる。


「あなたより俺の方が強いって言ったんですけど……あれ? もしかして難聴ですか?」


 ここぞとばかりに王馬を煽っていく。まさか向こう側から煽る理由を持ってきてくれるとは思わなかった。


「…………」


 その返答に、王馬はひたいに青筋を立てて返してくる。まさか言葉以外の返し方をしてくるとは思わず、口角を少し上げてしまった。


「何よ貴方! 王馬様に向かって!」


「王馬様の凄さを知らないのね……この世間知らずガァ!!」


「王馬様! どうしますか! リンチにしますか!?」


 取り巻きの1人が叫んだのをきっかけに、まるで爆弾のように他の取り巻きが連鎖爆発を起こし、俺を強く罵倒する。


(なんか……懐かしいなぁ)


 周りから罵詈雑言を吐きかけられるこの光景に、俺は近視感を感じていた。


 思い出すのは、もちろん東一での学校生活。クラスメイト達から貶され、いじめを受けたあの日々。


 昔の俺なら、周りから罵詈雑言を浴びせられるだけで、反射的に恐怖を覚え、歯からリズムよく音を鳴らしていたことだろう。


(けど、逆に今はちっぽけに見える)


 昔はあんなに大きく見えたのに、今は逆にとても小さく見える。自分では何もできないくせに、本人よりも声を大にして煽る塵芥ども。


「……ちっさいな」


 俺の小言が聞こえたらしく、びくりと肩を震わせ、ついにその口を開いた。


「……撤回する気はなくて?」


「ない」


 俺が即答したのを確認し、一息ついてこう述べた。


「……訓練所に来なさい。見せつけてあげますわ」


「……もちろん」


 自分の思うように展開が進んでいることに、俺は内心ほくそ笑んだ。









 ――――









「それでさー沙月ちゃんがさー!」


「そ、それでどうなったんですか!?」


「……このポテト、おいしい」


 私は今、天子先輩に誘われ、モールで遊んでいた。


 メンバーは如月紫音きさらぎしおん青葉里美あおばさとみ旋木天子せんぎてんし、最後に私だ。


 ちなみに紫音とは同期、里美は後輩である。


(はぁ、今頃訓練所で訓練してたのに……)


 不満を頭の中でこぼしつつ、なくなりかけのジュースをストローで吸い取る。少しのジュースが口の中に入ってくるのに遅れて、ストローが空気を吸い取る音が響いた。


 訓練所に行きたいなら行けばいい……と言うわけにはいかない。


 今日の昼頃、訓練所に行こうと部屋を出た時、ばったりと天子先輩に鉢合わせでしまい、こちらが断る隙も与えず、一気に遊びに参加させられてしまった。


(訓練ができないのなら……せめて、彼の戦いを……)


 かなうはずもない妄想をしつつ、適当に相槌を打っていると、神奈川兵士の1人が大きな声で叫んだ。



「みんなー!! 王馬様が田中って言う男と戦うんだってー!!!! 訓練所に集合ー!!」



 その声を皮切りに、周りの人々もぞろぞろと訓練所に向けて移動していく。


「先輩、どうしますか?」


「面白そうじゃん! 行ってみよー!」


「……まぁ、暇つぶしにはなるかも」


「……えぇ、そうしましょう」


(田中……ですか)

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