駆け上がるために

 今日まで、袖女とのレッスンだったり、観光して喫茶店を見つけたり……神奈川観光が目的なら、これ以上ないほど充実していると言えよう。


(違う……)


 俺は観光するために神奈川派閥にきたのではない。トップになるためにきたのだ。

 今まで観光のような室内できた理由、それは敵情視察をするためだ。神奈川のランキングを上げるためには、ただ功績を上げるだけではだめだ。神奈川のことを知り、神奈川に気に入られなければならない。


 そんな楽しい楽しい敵情視察ももう終わり、いよいよ神奈川ランキングを上げるために行動していこう。



 まずは手始めに……



「うぐ……あ……」



「1時40分…… 1年間捕まらなかった銀行強盗犯確保……っと」



 神奈川の仲間に入れてもらおう。









 ――――









 気になるあの子に気に入ってもらうために知る事は何か。


 自分が釣り合うイケメンになること? 積極的にアタックすること? 


 それもいいが、その間にもっといい男が来たらそれまでだ。では、できるだけ早く、誰でもできる方法とは……


「その子の……味方になってあげることさ」


 その子にとって利益のあること、それをしてあげれば、勝手に向こうからなびいてくる。キスして抱いてとせがんでくる。


 この話を人が聞いたら、「そんなわけない」と誰しもが言うだろう。なら俺はこう返す。「自分の全てをかけてその子の味方になってあげたか?」と。


 悪の秘密結社にさらわれた時、自分1人で助けてあげられるのか? その子に借金があったら、自分の身を使って返してあげられるのか? その子の味方になるとはそういうことだ。


 そのレベルで味方になってあげられた時、人は人に惹かれる。最初からその決意で望めば、最短ルートで手に入れることができる。



「……と思います」



(はい、持論語り終了ー)



 自分が思う、人を射止めるための論文を頭の中で語りきって、俺は満足した表情を浮かべる。


 今回の神奈川ランキングもあの子に気にいってもらうことと同じだ。神奈川派閥の味方になってあげれば、おのずと向こうも気にいってくれる。結果、ランキングをあげる時に優位に立つことができるのだ。


「……だから、長年捕まらなかった犯罪者たちを捕まえて、神奈川派閥に俺のことを好きになってもらう」


 目の前で身動きが取れないほどボッコボコになった犯罪者を見て言葉を告げる。


「どうですか? 俺の拳の味は」


 俺の言葉を聞き、犯罪者は血まみれになった口をゆっくりと動かし、かすかにつぶやいた。


「メ……メジャー級……」


 それだけ言い残し、犯罪者は気を失った。



「……不満が欲しかったんだけど」



 そうつぶやきながら、気を失った犯罪者を担ぎ、警察署へと連れて行く。


(4時ちょうど……これで何人目だっけ?)


 捕まえた犯罪者はこれで何人目だっただろうか、そんなどうでもいいことを考えていたら、いつの間にか警察署にたどり着いていた。


「また連れてきましたー」


 その声とともに、手の中にある犯罪者をどんと机の上に置く。


 犯罪者を目の前に差し出された警察官は俺が次から次へと捕まえてくる犯罪者に驚き疲れたのか、少し気だるげな表情をしていた。


「君は本当に規格外だね……今度は……楠木くすのき連夜れんや!? チェス隊の1人を殺害した記録もある大犯罪者じゃないか!?」


「なんだ。疲れた顔してたのに、まだ喜べる元気あるじゃないすか」


 警察官の驚き顔を見て、俺はクスリと笑う。俺自身、1日目からここまで捕まえられるとは思っていなかった。


「じゃ、まぁ今日はここまでにしときますわ」


 袖女の部屋から盗んだ犯罪者リストには、まだまだ捕まえていない犯罪者が記載されているが、やりすぎは体に毒だ。楽しいと思えるうちにやめておくのがちょうどいいのだ。


「ま、待ってくれ!!」


 警察署を後にしようとした時、警察官が俺を呼び止めてきた。



「本部から話があるんだ!!」




 ほら、向こうから寄ってきた。

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