問題点を解説
模擬戦の結果は意外とあっけなく、この俺、田中伸太の勝利に終わった。
ただ、あっけなく終わったからといって、何の収穫もなかったわけではない。袖女の長所も短所も、ある程度はわかったつもりだ。なので、今1番問題なのは……
「これ、どうしよう……」
完全に砕け散ったガラスの仕切り。それは誤魔化し切れないほどの被害を俺の顔前にありありと見せていた。
(袖女になすりつけるか……? いや、そんなことしたらこれから先、利用できなくなる……)
チラリと横にいる袖女を眺める。しっかりと助けを求めるような目線をするのを忘れない。
「…………」
袖女がなぜかジト目でこちらを見つめ返してくる。なぜだ。こんなにも助けを求めているのに。
「……はぁ」
袖女はため息を1つついた後、見るも無残に砕け散ったガラスを指差し、言葉をこぼす。
「このガラスは修復の
ガラスの方を振り向くと、袖女の言ったとおり、ガラスの破片がカタカタと震え始め、元の姿に戻っていく。ファンタジー染みたその光景に俺は口を開けざるを得なかった。
「……すげー」
「ふふん」
「なんでお前が得意げなんだよ」
「いいじゃないですか別に」
「……というか、訓練所なのになんで仕切りがガラスなんだよ。こんなの簡単に壊れるだろ……」
「……そうですね」
やがてガラスは完全に元の形に戻り、そこには一度割れたと思えないほど、きれいに元に戻っていた。
「……で、何かわかりましたか? 私を一瞬で倒した黒ジャケットさん?」
嫌味を言いつつも、袖女は自分の戦闘について聞いてくる。すぐにやられてしまったことへのイラつきはあるが、指摘は聞いておきたいと言ったところか。
(かわいげねぇな……)
もっと素直になればかわいいところあるのに、そう感じつつ、俺は気になったところを述べ始めた。
「まず単純にスピードが足りない。単純な身体速度もそうだが、もっと肝心な反応速度が致命的だ。俺が後ろに回り込んだ時の振り向く速度が遅すぎる。とにかくもっと早く行動しろ。戦いにおいてスピードは正義だ」
袖女はいつの間にか懐からメモを取り出し、指摘したことを律儀に書きまとめていく。そこまで真摯になって聞いてくれると、こちらとしても気分が良い。
俺は上機嫌になりながらも、どうかと思ったポイントを述べていく。
「それと戦い方だな。お前なりに相当考えた結果なんだろうが……なんだかお前らしくない。遠距離と至近距離両方こなそうとしただろ?」
その言葉に袖女はピクリと肩を動かす。どうやら図星のようだ。
「お前のことだ。あの戦法について小難しく考えていたんだろうが……あんなのただのヒットアンドアウェイに過ぎない。戦法を変えるのなら……」
そう言いながら、袖女の持つメモとペンを奪い取り、とあるものを書き込み、メモを袖女に返した。
「……もっと自分の特色を生かせ」
それを見て袖女が立ちつくしている内に、訓練所を後にした。
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