引き継ぎデータ
突如発生した衝撃波。
それは俺を中心に孤を描き、周りの物を吹き飛ばす。
空想生物である仮想牛も例外ではなく、その衝撃に巻き込まれて大きくのけぞる。
(ガラ空きだ!)
がら空きになった上半身に、反射と闘力を込めた1番の攻撃を叩き込み、仮想牛の姿は空気となり霧散した。
「ハァ……ハァ……」
軽い訓練のつもりだったのに、思ったよりもハードなものになってしまった。
「ワウワウ!」
ブラックも見えない敵との戦いが終わったと感じ取ったのか、足早にこちらに近寄ってきた。
(勝てたけど……問題はそこじゃない)
戦闘中に発生したあの衝撃波。あれの原因を調べる必要がある。
「…………」
まず、反射によるものではないのは確かだ。
あの時、俺は腕に反射を使っていて、他の体の部位に反射を発動させる事は不可能だった。反射の新たな使い方を偶然身に付けたのかとも思ったが、反射を使ったときの特有の感覚は感じられなかった。感じたのはもっと別の感覚だった。
(でも、あの感覚はどこかで……)
どこかで感じたことのある感覚だった。それも昔ではない。もっと最近……それでいて、とても身近にあったような気がする感覚だった。
「……いや、まさかな」
俺は近くにある小石を指差し、「浮かべ」と念じてみると……
「あー……」
その小石を見事に俺の念を実行し、空中に浮いて見せた。
「……データ引き継ぎってやつか?」
どうやら俺は、エリアマインドの力の一端を手に入れたようだ。
――――
「まさかこんなことに……」
なんと俺はエリアマインドの力を手に入れることに成功したらしい。それを証明するように、俺の指先に浮かぶ小石がふわふわと浮いている。
「……いろいろと調べてみるか」
俺はスキルを一旦解除し、浮かばせていた小石を手の中に落とす。それを訓練所の端ギリギリに置き、そこから5メートルほど距離を取る。
「まずは射程範囲だ……」
藤崎剣斗の体で活動していた時は、エリアマインドの射程範囲は10メートルと文句なしの射程だった。もしそっくりそのままエリアマインドを使えるようになったのなら、5メートル先の小石を浮かべる程度、鉛筆を掴むことぐらいたやすいことだ。
「む……」
しかし、結果は俺の予想と反して、いくら念じても浮かぶことはなく、こちらをあざ笑うかのように、その場にぽつんととどまるだけ。何ならうちわで仰いで方が浮いてくれそうだ。
この時点で藤崎剣斗の体の時とは違うことがわかる。後は正確な射程範囲を調べるだけだ。
俺は小石に浮かべと念じ続けながら、ゆっくりと近づいていく。
(3メートルほどだったらいいんだが……)
結果、1メートルより近くにならないとエリアマインドの効果は届かないことがわかった。
「えぇ……」
何という射程の短さだ。これならわざわざエリアマインドで攻撃するより、普通に反射の拳をぶつけた方がよっぽど楽だ。実戦レベルには到底到達しない。
いやまだだ。まだ終わりではない。俺の記憶が正しければ、エリアマインドは範囲内ならいくらでも宙に浮かべられたはず。大量のものを浮遊させて相手にぶつければ、それなりの火力になるはず。俺はさっそく辺りの石や砂を浮かべて……
浮かべて……
浮かべて……
「……まさか1個だけ?」
浮いたのは石1個だけ。後はいくら念じても動かない。
(……まさかここまで弱体化しているとは)
いくらスキルを手に入れたところで、そのスキルが実戦レベルに達しないとあっても意味がない。結局戦いで使わないからだ。
(一応、重量制限は無いけども……)
俺は頭に手を当てる。闘力操作に続いて、ゴミスキルを手に入れてしまったことに。
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