VS仮想牛
俺の空想の中に現れたのは、大阪で死闘を繰り広げた強敵、牛だった。
(さあ、どうしようか……)
さっき、問題ない相手だとか言ってしまったが、正直言って勝てるかどうかは難しい相手だ。
理由は体を入れ替えられた時期にある。俺が体を入れ替えられたのは、牛を倒してすぐのことだ。
よって、あの頃から身体的には何も変わっていない。感覚的には大阪にいた時と変わらないが、むしろ長い間寝たきりになっていた分、気づかない程度には筋肉が縮んで劣化している可能性すらある。
なので、ここで負けてもしょうがないのだが……
(……勝たないとな)
なぜ男とはここまで勝ちにこだわるのだろうか。どんな状態であろうと、どんなコンディションであろうと、敵を目の前にしたら戦わずにはいられない。そして勝ちたい。勝利への渇望が、俺の本能をかきたてる。
「いくか!!」
足に反射を使い、地面を踏んで一気に接近。同じ反射を込めた右拳で攻撃にかかる。
(……っ、やはり違和感が……!)
東京で体が入れ替わっていた時はスキルの都合上、離れて遠距離攻撃しかしなかった。その分、こちらから接近することに強い違和感を覚える。
(だけど、これが本来の戦闘スタイルなんだ……!!)
反射的にブレーキをかけてくる脳を無視し、仮想牛と接近戦を繰り広げる。俺の拳を牛が防ぎ、牛の拳を俺が防ぐ。外から見たら1人でコサックダンスを踊っているように見えるかもしれないが、本人である俺からしたら、一瞬たりとも油断できないバトルだ。
(くっ……)
「へへ、へ……」
脳が喜ぶ。口は勝手に笑みを浮かべる。久しぶりの接近戦。拳と拳の殴り合いに、俺の全てが歓喜している。
「だあっ!!」
俺の拳をもろに受け、仮想牛が大きく後ろに吹っ飛ぶ。接近戦はなんとか俺が打ち勝つことに成功した。
しかし、俺の攻撃はそこで止まらない。後ろに吹っ飛んだ仮想牛にトドメを刺すため、後を追うように仮想牛に接近する。
「これで……!!」
が、トドメの一撃を放とうとした時、仮想牛が霧になって消える。
「ちっ……」
仮想牛の無敵化だ。ここまでイメージできているとは、さすが俺。イメージ力も一流だ。
(いやいや……)
そんなことを考えている場合ではない。俺の反射ではこの無敵化に対抗する方法は無い。あの時はジャケットを燃やす力業でむりくり攻略したが、消耗品を使う戦い方は合理的ではない。
(砂を手でばら撒くか? ……いや、あまりにも範囲が小さすぎる。それに砂を撒く行動だけで片腕を使うのはもったいない)
それを考えている間に、仮想牛が目の前に現れた。
(しまった!)
考える時間が長すぎて硬直の時間が生まれてしまった。これは仮想牛にとっては格好の的。目の前に現れた仮想牛はパンチングの姿勢をとっており、それを振り抜くまでにまばたきをする時間すらかからないだろう。
「ちか……」
まずい。このままでは仮想敵なのにリベンジ達成されてしまう。1度勝った敵に負ける。戦士にとってここまで屈辱な事は無い。
負けたくない思いからか、仮想敵にも関わらず大声で叫んでしまう。
「近寄るなあぁぁぁ!!!!」
無駄だとわかっているのに、右手が拳を作り、それを発射しようと試みる。
(……っあ!? なんだ!?)
いつか感じたことのある、脳に感じるバチバチ。頭の中で火花が散るような感覚に一瞬意識が奪われ――――
「……なんだこれ」
自分を中心に衝撃波が発生。仮想牛が吹き飛んだ。
今まで体に異常はないと言っていたが、撤回させてもらおう。
どうやら、俺の体には大きな異常が起きているらしい。
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