感覚をとりもどす
喫茶店を出た後、とある場所に行くため雨の中を駆け抜けた。場所自体は知っていたため、そこまで時間はかからなかったが、そのかわり身体が雨でビシャビシャになった。
だが、そのとある場所に着いた今、体がビシャビシャになっていることなど気にならなかった。
「久しぶりだな……ここも」
たどりついたのは公共用の訓練所。何を隠そう、初めて神奈川に来たあの時、ハカセに勧められ、打倒袖女を目標に、黙々と訓練に取り組んだあの場所である。
今思えば、初めて強くなったと感じた場所もこの場所だった。
「ワウ……?」
「あ、ブラックは初めてだったな」
ブラックと出会ったのは神奈川派閥から大阪派閥に待避した後だったので、ブラックは訓練所を見るのは初めてだった。
「別に怖いところじゃないよ。さぁ、行こうか」
少しの懐かしさと大きな高揚感を覚えながら、訓練所へと入っていった。
――――
さて、なぜ俺が訓練所に入ったのか、それは自分の体の感覚を取り戻すためである。
正直、今の俺がたった1人で訓練して身に付けられることなどたかが知れている。しかし、今の俺は元の体に戻ったばかりでブランクがある特殊な状態。体の感覚を取り戻すためだけなら、訓練所も役に立つ。むしろ1人でできる分、人の目を気にせず体の感覚を取り戻すことに専念できるというわけだ。
「さてと……」
俺は訓練所の中に入ると、そのあまりにも変わらない内装に感動を覚える。
学校の大運動場を仕切りで区切ったような質素な作り。科学力が高い神奈川なのに、この原点回帰な感じ、たまらん。もともと一人暮らしで裕福ではなかった分、これくらいの方が逆に落ち着く。雰囲気と言う意味でも、この訓練所は持って来いなのだ。
「ほっ……ほっ……よっ……」
その場で数回飛び跳ねて、準備運動を終えた後、右手で近くにある小石をつかみ反射を発動する。
反射によって弾き飛ばされた小石は目にも止まらぬ速度で発射され、仕切りに激突する。
俺の反射を使ったとはいえ、小石は小石。さほどの威力にはならないが、感覚を取り戻すのには充分だ。ちなみにブラックは巻き込まれないように隅っこで待機してもらっている。
(ああ……懐かしい……)
初めて神奈川に来た時もこうやって小石でスキルの実験をしていたっけ。ノスタルジーに浸りつつも、訓練を進めていく。
(見たところ、スキルは変わらずだな……体の方は……)
俺は体の調子をチェックするため、目をつむり、仮想敵を想像する。
やがてゆっくりと目を開く。そこにいたのは……
「……お前か、牛」
大阪派閥にて、俺をたった1人で追い詰めた強敵。十二支獣の牛がそこにいた。
「……この体なら問題ない相手だな」
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