神奈川で成り上がる方法

 神奈川ランキング。


 それは神奈川場派閥にとって、人の強さを決める基準であり、絶対の指標。これが上であればあるほど、神奈川にとっては価値の高い人間だと認識される。


 そしてそのトップ、上位32人で構成されたのがチェス隊である。


 しかし、それは女性ランキングの中での話。


 神奈川にはランキングが3つある。まず、上位30人がチェス隊になれる女性ランキング。


 そして、上位2名のみがチェス隊のキングになれる男性ランキング。


 最後に、それら全てをまとめた総合ランキングの3つだ。


 正直言って、最後の総合ランキングはそこまで問題じゃない。極論、総合ランキングでチェス隊最下位だとしても、男性ランキングで1位か2位にいれば、キングになる事は可能だからだ。


 ただ、1位か2位にいなければ、チェス隊になることはない。男性ランキングは女性ランキングに比べて人数も少なくレベルも低いが、本当にトップにいないと意味がない。


 だから女性ランキングの方が上位に行きやすいかと言われれば、そんなことはない。確かに上位30人とチェス隊になれる人数が多い分、簡単そうに見えるが、そもそも女性ランキングは人数も多いしレベルも高い。


 結局、どっちもどっちというわけだ。


 しかし、そんな女性ランキングの30位である袖女に俺は勝利している。



 なので……



「俺が男性ランキングで1位になることなどたやすい……と、いうわけだよ。ワトソンくん」


「私はワトソンではありませんけどね」


 俺は深夜まで神奈川中を観光した後、袖女の部屋まで来ていた。


 初めての神奈川。初めて東京以外の都会を経験したため、深夜なのに眠れる気がしない。そのため、眠そうな袖女を無理矢理起こし、自分がキングになれる理由を語っていたわけである。


「……もう寝ていいですか?」


「ダメだ。まだ聞け」


 袖女はもうまぶたが半分閉じている状態だ。相当眠いに違いない。


(ま、関係ないけどね!)


 だが、そんなことどうでもいい。俺のこの高ぶる気持ちを沈めるためには、それを受け止める受け皿が必要なのだ。


 と、俺がランキングに入れる理由を再び話そうとしたその時。


「……でも、男性ランキングにも……強い方はいますよ」


 ここで袖女、初めての反論。


 ……まぁ、確かに袖女の言っていることも間違いではない。チェス隊ほどではないにしろ、有名な神奈川の男性兵士は少なからずいる。


 しかし、それを考慮したとしても、俺の理論は揺るがない。


「問題ない。神奈川の男性兵士が有名になれた理由は、ほとんどがそのルックスによるものだ」


 神奈川での男性兵士は、強さよりもルックスが求められる。男というものの需要が高い分、モデルとしての活動が非常に多いのだ。


 なので、神奈川で強さで有名になった人は現キングの2人ぐらいしかいない。しかも、その2人も加齢により戦うことが不可能らしく、事実上引退している。


「だから簡単に上位に行けるわけだよ」


「……でも……キングのお二方には……功績……ぐぅ」


 話の途中、ついに袖女は力尽き、ベッドの上で眠ってしまった。


(……まぁ、そこが問題なんだよな)


 さっきまでキングになることなどたやすいと言っていた俺だが、実のところ不安要素はある。それがキングの2人の功績だ。


 もう過去のものとはいえ、あの2人が残した神奈川兵士としての功績は全国レベルで見ても有数のもの。1部の民間人からは神格化されているほどだ。


 もしかしたら、どんなにすごい功績を上げたとしても、その過去の栄光のせいでいつまでたってもキングになれないかもしれない。



 それこそ、キングが死ぬようなことがなければ……


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