戻ってすぐのこと その3
なんでもパン屋。なんでもというその名の通り、対価を払えば大抵の事を叶えてくれる。裏社会の人間御用達の店だ。
ここに来た理由は簡単、今回、神奈川攻略をするためには、どうしてもこの店の力が必要だったからだ。
「では、こちらに……小さなあなたも」
「ワン!」
店主に連れられ、店の中の応接間に入る。中は俺が初めて来た時とそこまで変わってはいない。しかし、裏社会以外の人間用に経営しているパン屋のパンの値段が格段に安くなっていたり、応接間で出されたお茶を入れるコップがやたら高そうになっていたり、所々で裕福になったと思わせる変化がある。
俺と店主はテーブルを挟んで向かい合わせになっている椅子に座る。ブラックはというと、初めて来た場所に興味があるのか、トコトコそこらを歩き回っていた。
「今日はどんな御用で?」
店主は気味の悪い笑顔を絶やさずに問いかけてくる。俺はそれに動じることなく、淡々と答える。
「これから神奈川に行く予定があってね……それの手伝いをしてほしい」
「ほう……神奈川ですか……いいでしょう。協力しましょう」
神奈川に行くという言葉を聞き、店主は少し考え込むようにアゴに手を当てる。……が、すぐにその手を離し了承の言葉とともにニヤリと笑みをこぼした。
「……やけに素直なんだな」
「私は『なんでもパン屋』の店主ですよ? お客様の要望には最大限答える。当然のことをしたまでです」
「本音は?」
「……あなたが神奈川で何かしでかそうとしているんです。面白そうじゃないですか」
全く、この人は仕事人なのかただの変人なのか……つかめない人だ。
「で? 今度は神奈川で一体何を?」
やはり聞いてきたか、普通なら答えないのが得策だが、神奈川に入るためには店主の協力が必須。もし答えずに店主の機嫌を損ねてしまえば、神奈川で目的を果たすどころか入ることすら難しくなってしまう。
(ここは話さざるを得ない……か)
「……神奈川でキングになるためだ」
意を決して、店主に向けてその言葉を発する。店主は俺の言葉を聞いて目を丸くしていた。やはり突拍子もなさすぎたか。そう後悔しそうになったその時。
「ククッ……クハハハハハハ!!」
店主はアゴを上げ、大笑いし始めた。その異様な姿に俺は少し戸惑ってしまう。
「やはり貴方は面白い!! あの時に感じたものは間違いではなかった!! ええ、ええいいでしょう!! この私、微力ながら『無償』で協力させていただきますよ!!」
どうやら俺の発言がお気に召したらしく、大笑いしながら協力してくれることを約束してくれた。急に大爆笑されたことには少し驚いたが、これは最高の流れだ。この勢いのまま、やってほしいことを言ってしまおう。
「1つ質問なんだが、店主のスキルは国単位の量の人間に使うことは可能か?」
「……うーむ。やってみた事は無いですが、時間があれば可能ではあると思います」
(よし……)
俺はあらかじめ可能であると確認を得てから、店主にここに来た目的を話した。
「監視カメラに俺とブラックを映らなくして欲しいこと……それと、神奈川の人間全員が俺を見て黒ジャケットだと思わなくして欲しい。袖女を除いてな」
それが叶ったのは、さらに2週間経った後だった。
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