戻ってすぐのこと その2

 次の日。ある程度リラックスして疲れが取れた俺は、ソファに座り、これからの事について考えていた。


(東京派閥に復讐することは確定……だけど、今の俺単体では兵士層の厚い東京派閥を打ち崩すことはできない……)


 この悩みを解決する方法は2つある。


 1つは今すぐ特訓し、東京派閥を潰せるレベルで強くなる方法。もう1つはこちらも頭数を揃え、戦争レベルの大規模な戦いを起こす方法だ。


 どちらかと言えば現実的なのは後者だが、相手が東京派閥となるとかなりの数を要する。それこそ国を作るレベルの人員が必要だ。人の数と言う観点から見て現実的ではない。


 しかし、前者はもっと現実的では無い。ほぼ理想論のような策だ。東京派閥を単体で潰せるほどの力を手に入れる。1年や2年で到達できるレベルではない。


(けど、いつかは超えられる……かもしれない)


 仮に前者の方法を選んだとして、もし俺が特訓している間に東京派閥が更に力をつけてしまえば、俺の復讐がさらに遠くなる。それは避けなければならない。


(せめて……東京派閥に対抗できる勢力につながっている協力者がいれば……)


 贅沢なことを言っているのはわかっている。だが、最低でもそれくらいのパイプがないと、東京派閥が今以上の勢力になる前に潰すなんてとても……


「東京派閥と同じくらいの……か」


(……だめだこんなんじゃ)


 あまりにも希望的な見方をしてしまっている。俺らしくない。無い物ねだりせず、もっとクレバーに、実行できる範囲で考えなくてはいけないのだ。


(一旦飲み物でも飲んで落ち着こう)


 キッチンまで歩き、そこにある冷蔵庫を開けると、そこには大量の保存容器がギッシリと詰め込まれていた。


「な? なんだ……?」


 保存容器の1つを取り出し、半透明のフタから中身を確認してみる。


「料理……? カツレツか?」


 そこにあったのは保存されたカツレツ。美味そうに揚がった豚肉に卵が閉じており、そのビジュアルは食欲をそそられた。


 これを温めて、ご飯の上に……味噌汁も……


 ゴクリ、と自分でも大きいと思えるくらいの音を立ててつばを飲み込む。しょうがないだろう。カツは俺の大好物なのだから。


(もしかしてこれ全部……?)


 他の容器もチェックしてみるが、全てが全て料理の作り置きだった。


 こんなものを冷蔵庫に詰め込んだ覚えは俺にはない。となると、俺の家で料理を作って作り置きできる人物は袖女しかいない。


(あいつ……)


 まさかこんなサプライズを用意していたとは思わなかった。あんな女にも奉仕の心があったことに俺は驚きを隠せなかった。


 感動。その一言でしか表せない感情が俺の中で膨れ上がっていく。最初の頃は寝る前に舌打ちを欠かさないほどのクソ女だったのに、今では神奈川に帰る前にこうやって作り置きをしてくれるほどにまで成長した。やんちゃしていた娘に感謝された時の親がこんな感情なのだろうか、とにかく感動だ。



「神奈川に帰る前の準備で忙しかったろうに……」



 そう、神奈川へ……へ?



「……あるやん。パイプ」

 

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