戻ってすぐのこと
目が覚めてから、ブラックの頭を久しぶりに撫でた後、俺は改めて体の状態を確認する。
妙にしっくりくる体、カラカラの喉、何故かベタベタになっている顔。うんわけわからん。
しっくりくるのは本来の自分の体だからだとわかるし、カラカラになった喉も長い間横たわって水を口にしていないからだとわかる。だが、なぜ顔がベタベタになっているのか。
「ワン!!」
「……お前か」
悪気はなかったのだろう。俺のことを心配してくれた気持ちは貰ったが、唾液はいらない。家の状態を確認したらすぐにでも顔を洗うとしよう。
ベタベタ感に囲まれながら、俺は横たわっている体を持ち上げてあたりを見渡す。散らかってはいるが間違いない。大阪にある俺の家だ。
あたりに散乱しているのはドッグフードだろうか? どうやら自力でドッグフードの袋を開けて食べていたようだ。
「お前にも迷惑をかけたな……」
「ウゥ?」
俺の言葉にブラックは首をかしげて反応する。全くこいつは人の言葉がわかっているのかいないのか……普通の犬では無い事は確かだが。
「よし、家はわかったから掃除……の前に体洗うか!」
「ワン!」
――――
風呂で体を清潔にした俺は、掃除に取り掛かりながらも、頭の中で東京での出来事に関しての考察が渦を巻いていた。
本来なら、この先どう行動するかについて考えを巡らせていた。だが、俺の中にある1つの疑問が、未来の事について考えることを脳にさせなかった。
(なぜ……俺の体は動いていなかったのか……)
あの女の能力が体を入れ替える能力なら、俺の体に藤崎剣斗の魂が入って行動しているはず。なのに俺の体は最後に動かした時から一切動いていない。ベッドから起き上がってすらいなかった。
今考えてみれば、俺の体をわざわざハイパーの体に入れ替える必要性は無い。ノーマルスキルあたりの人間の体にした方がよっぽど楽に俺を処理できるはずだ。
(うーん……わからん)
いくら考えたところで、今の俺に真実を知る手段はない。何の異常もなく元の体に戻れたのだから今はそれを喜ぶべきだ。
「ワウ?」
と、ブラックが料理本を口にくわえながらこちらに近寄ってくる。これはどこにしまうのか聞いているのだろう。
「ああ、それはリビングの本棚に仕舞っておいてくれ」
「ウウ」
俺の言葉を聞いたブラックはリビングの本棚に向かってトコトコと歩き、器用に口を動かし、本を見事に本棚に仕舞った。
(マジで賢いな……)
ブラックは大阪派閥に作られた生物兵器だ。だが、だからといって俺の敵ではない。初めてその事実を知った時は少し警戒したが、その警戒心よりもブラックの行動の結果により生まれた信頼の方が勝った。
「ワ、ワウ……フウ……!」
ブラックの苦しそうな声を聞き、そちらを振り向くとテーブルの雑巾がけに挑戦していた。口や前足で雑巾を持ってなんとかしようとしている。
(いや、無理だろ……)
そんなブラックを見ているとなんだか毒気を抜かれてしまう。
(次のことを考えるのは……明日にするか)
一旦難しいことは忘れ、やっと帰ってきた家を満喫しよう。そう思った俺であった。
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