よお!! 久しぶり!!
「……ふぁ〜」
次の日、窓から溢れ出す朝日に当てられた私は、その眩しさに当てられて目を覚ます。施設の最上階の為か他と比べて入ってくる日光が強い我が家……我が部屋だが、今日はやけに光が強いように感じる。
窓にかかっているカーテンをあざ笑うかのように、光がカーテンを突き抜けて私のまぶたを照らす。おかげで寝起きは最悪だ。もう少し寝ていたかった。
時計を確認すると、時刻はまだ5時。ほとんどの人はまだ寝ている時間帯だ。
しかし、この時間帯なら訓練所を使う人は少ないはず。もしかしたら2日連続で訓練所を使用できるチャンスかもしれない。
「まったく……」
訓練所を使用できるチャンスとは言え、それでも眠くて気分を損なっている事は事実。ここは一度カーテンを開け、朝一の日光を思う存分体に受けるべきだ。
私はカーテンの端をつかみ、一気にカーテンを開ける。
「お? ずいぶん早起きだな」
そこには彼が……
「キャアアアアアア!!!!」
否、不審者がいた。
――――
「ひよりー! どしたー!?」
施設中に響いたひよりの叫び声に、私、旋木天子は飛び起き、パジャマのままひよりの部屋に入り、寝室のドアを開ける。
「あ……あーいやぁ……」
ひよりはベッドから上半身だけを起こし、下半身に掛け布団を被せた状態でこちらを見ている。一見変わったところはなさそうだが……?
「どうしたの? 何かあった?」
「……あ! 起きたら黒いのがいて……起こしてしまったようですいません」
(黒いの……?)
黒いのと言う言葉に一瞬疑問を覚えたが、少し考えれば簡単にその意味が理解できた。
「あ〜……」
要するにアレだ。カサカサと動くアレ。
「ふぁ〜……先輩方、何かありましたか……?」
「……何」
「里美……紫音……」
部屋が近くの紫音と里美を始め、チェス隊メンバーがぞろぞろと集まってくる。
「ああっ……大丈夫です! 自分で処理できますから!」
ひよりが私を含めたチェス隊メンバーに謝罪し、騒ぎは収まった。
……だけど、何を言ってもひよりはベッドから起き上がろうとしなかった。
(なんだろ? まだ眠かったのかな?)
――――
チェス隊メンバーが全員外へ出た後、廊下をチェックして全員が自室に戻ったことを確認すると、私はベッドの中に隠れているある人物に声をかけた。
「……もう大丈夫ですよ。出てきても」
ベッドの上にある掛け布団の不自然な盛り上がり。私の発言をきっかけに、それがもそもそと動き、その姿をあらわにする。
「ふーっ、危なかったな」
「ワン!」
「危なかったなじゃないですよ。私が隠さなかったらどうなっていたことか……」
私は頭を抱えながら、彼に対して文句を吐く。だが彼にはそんなこと耳に入っていないようで、私の言葉を無視してブラックの頭を撫でている。
「急に来た事は悪かったよ……行くあてがお前の部屋しかなかったんだ。キャンプの道具もなかったしな」
「お金はあるでしょう? ホテルとかでも……」
「神奈川に来た目的を達成するまで帰らないからな。いつまで滞在するかわからない以上、ホテルを使うのは非効率すぎる……そこでお前の出番というわけだ」
「……はぁ、そうですか」
彼の言い分に若干の不満はあるものの、大体の話は理解できた。どうやら何かをするために神奈川に来たのはいいものの、寝泊まりするためのものを持ってこなかったらしい。
「というか、ここで泊まるのは危険では? もしばれたらさすがにあなたとは言え、殺されますよ」
「問題ない。夜に寝床として利用させてもらうだけだから。大阪の時みたいに同居するわけじゃない。お前は夜に窓を開けるだけでいい」
「……まぁ、それなら」
夜に眠るためだけなら、チェス隊メンバーの目を欺けるかも知れない。が……
「待ってください。監視カメラが……」
この施設には外に監視カメラがある。それに映ってしまえば、時間帯など関係なく見つかってしまう。いや、もしかしたら今も――――
「あーそこは問題ない。映らないから」
「……え? 映らないってどうゆう……?」
「色々とあるんだよ。色々な」
「……そうですか」
若干の不安は残るが、彼が大丈夫だと言うのなら大丈夫なんだろう。
そして最後に、聞いておかねばならないことがある。
「……あの、神奈川に来た目的はなんですか?」
「……なるため」
確かに聞こえたその言葉。しかし、その言葉は現実味がなく、子供の妄想のように感じる。
ただ、大阪で不可能だと思っていたことを可能にしてきた彼だから、本当にやりかねない。本気で思っているんじゃないかと思ってしまう。
「……正気ですか?」
「ああ、正気だ」
「俺は……神奈川で"キング"になる」
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