激闘の後
あの戦いの後、私はなんとなくただ突っ立っているだけ
なのも申し訳なくなり、近くにある休憩所の自動販売機でジュースを購入し、何の目的もなく訓練する他のチェス隊を眺めていた。
見ていて改めてわかったことだが、やはりチェス隊の人気は物凄い。どこを行くにもボディーガードのように女性たちがついて回っている。常に周りに見つめられていて、疲れないかと思うと同時に、自分は相当人気がないんだなと実感する。
訓練所からチェス隊メンバーがいなくなっていくたびに、人の数がチェス隊メンバーにつられてどんどん減っていく。オープンワールドのオンラインゲームが衰退していく瞬間をリアルタイムで見ている感覚。賑わっていた訓練所がどんどん静かになっていく。
やがて夕方になり、ついに最後の1人が退出。訓練所に残っているのは遂に私1人になった。
「……せっかく着たのに何もしないのもあれだし」
ジュースでたぷたぷになった体を持ち上げ、ガラス張りの訓練所の中に入る。
(他の人の体温で少し暑くて……自然と気合が入るこの感覚……)
訓練所にしばらくの間通わなかったせいか、妙にこの感覚が懐かしい。1種の感動すら覚える。
「すぅー……」
息を大きく吸い込み、正拳突きの構えを取る。この構えを取るのも久方ぶりだ。私はその拳を発射する前に、体を強く脱力させて……
「ふっ!!」
一気にその拳を前へ発射した。
大きく聞こえる風切り音。遅れて発生する風船が割れたような破裂音。いつも通りの、気持ちいい音だ。
……そう、いつも通りの。
(あんまり期待してませんでしたけど……)
私はいつもそうだ。どれだけ頑張っても成長しない。さっきの一撃も強くなった手応えがない。変わっていないとわかっていても、やはり落胆してしまう。今までの私なら、凹んだまま帰路に着いていただろう。
……だけど。
『別に変わらなくてもいい。お前はもう俺より強いんだ』
「……へへ」
こうやって気分が沈んだ時、私の中であの言葉が励ましてくれる。また次も頑張れる。そんな気持ちにさせてくれる。
そこからもう少し訓練所で運動した後、自室に戻った。
そうして1日が終わる。
――――
「着いたーっと……」
大阪を出発してから3時間、ついに神奈川に到着した。
もっとかかるかと思っていたのだが、この体の実力を忘れていたらしい。あの時の体と比べてもスキルとの掛け合わせでビュンビュン動ける。しかもほぼ無限に空中を移動できるため、交通の便の関係で遠回りする必要性がない。とあるところに寄り道する必要があったので、そこの分時間をロスしたが、それ以外はまっすぐ神奈川を目指すことができた。
俺は大きく息を吸い、高らかにその声を上げる。
「さぁ……魅せつけに行こうか!!」
「ワン!!」
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