黒のビショップVS白のビショップ その2

 ダイレグション・方向オブ・フォースの弱点。それは制限だとか不意打ちするだとか、そんな小細工ではない。もっと単純なもの。少し固定概念をなくすだけ。


「……そういうことですの」


 どうやら沙月先輩も気づいたらしい。この風のロジックに。


 沙月先輩は天子先輩をじろりと睨み、言葉を発する。


「攻撃と"認識させない"とは……やりますわね」


「あり? もうバレちゃった?」


 そう、天子先輩はダメージをギリギリ受けない程度の風を送り込むことで、スキルに攻撃と認識されることなく、沙月先輩に風を当てることに成功していた。


「ですけど……この程度の風、ダメージにはなりませんわよ? どうする気でして?」


(いや、それは違う)


 確かに沙月先輩の言う通り、直接的なダメージにはなりはしないだろう。ただ、断続的なダメージを与えることができる……


(体を支える……足首に!!)


 風に耐える体。それを支える脚。その核である足首。それに小さなダメージを与え続ける。


 塵も積もれば山となる。小さな痛みも続けば激痛となる。足首を封じられた沙月先輩など、天子先輩からすれば一般人とさほど変わりない。


(そもそも天子先輩はダメージを当てようとしていなかった……)


(断続的にダメージを与えて、体を壊そうとしているんだ!)


 足首が使えなくなればそれは立派なダメージと言える。天子先輩は初めから脱出不能のハメ技に沙月先輩をはめる気だったのだ。

 今考えてみれば、最初の竜巻攻撃も、脳筋で強い風をぶつけ続けると相手に思わせるため。全てはこの技を当てるためのブラフ。全ては仕組まれていたのだ。


「む……」


(足が震え始めた……!)


 沙月先輩の足がプルプルと震える。近づいてくる足首の限界。そのカウントダウンが始まった。ああなると足が棒になったかのように動かすことが困難になってくる。


(でも動かないと……)


 沙月先輩に勝機はない。


 そして次の瞬間、私の思いに応えるように沙月先輩は風の中を進み始める。震え続ける足で天子先輩に向かって行く。絵面は地味だが、これは立派な戦いだ。


 スキルの穴を付き、断続的なダメージを与えて勝ちを狙う天子先輩と、ダメージで足が使えなくなる前に決着をつけなければならない沙月先輩。


 戦闘経験者から言わせてもらうと、この戦いは天子先輩が圧倒的に有利だ。


 天子先輩は沙月先輩から離れているだけで勝ちが向こうから寄ってくるのに対し、沙月先輩は近づいてからさらに攻撃を当てねばならない。勝つためのリスクが段違いだ。


 無敵と言えるスキルを持つ沙月先輩に対して有利を取れた。後はゆっくり離れるだけ。それだけで勝手に自滅してくれる。


 しかし、ただではやられないのが白のビショップ、王馬沙月。地面を足で強く叩き、スキルに攻撃だと認識させて地面を砕く。その影響で大きく盛り上がった土の塊を天子先輩の方へ受け流した。


 受け流したとは言ったが、その土の塊はやわな威力ではない。まるで弾丸。受ければダメージは確実。そして今回の試合のルール上、これを避けなければ負け。絶対に受けてはならない。


「……っ!」


 焦った顔をしながら間一髪のところで避ける天子先輩。その額には汗が浮かんでいる。範囲はともかく、常に沙月先輩のスキルが攻撃と認識しないギリギリの威力の風を出し続けるというのにかなりの集中力を割いてしまっているのだろう。



 回避したところまでは良い。だが――――



「先輩!! 前!!」



 土の塊を隠れ蓑に、沙月先輩が目の前まで来ていた。

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