黒のビショップVS白のビショップ
沙月先輩に攻撃は通用しない。ならばどうすればいいのか。
(答えは単純……逃げるしかない)
当然だ。勝てないのだから。攻撃が通用しないというのは勝てないと言っているのと同義。沙月先輩の体力消耗を待つのが唯一の線だが、あんな棒立ちでは体力消耗は望めない。
「では……次はわたくしの番ですわね」
沙月先輩は何も気にすることなく、まるで散歩のようにズカズカと天子先輩へと歩を進めていく。
その姿はまるで女王。周りの者がすべて自分以下なのだと、言葉ではなくその気品で伝わってくる。その気品は観客にも伝わり、さっきまで盛り上がっていた訓練所が静寂に包まれていた。
しかし……
「うーん、やっぱりかー……」
この人だけは、天子先輩だけは例外。周囲の人たちを黙らせるほどの存在感を放つ存在を目の前に、天子先輩はいつもの調子を崩さない。それもそのはず、メンタルという点では、彼女は黒のクイーン、斉藤美代に劣らないほどなのだから。
「なら……前々から考えてた沙月ちゃん対策をここで出すか!」
「……へぇ」
沙月ちゃん対策という言葉に沙月先輩は反応を示す。かく言う私もその言葉に興味を惹かれていた。
一見、無敵に見える沙月先輩のスキル、
「いっくよー!!」
そう言うと、天子先輩は両手を大きく前に出し、風を発生させる。その風は暴風……とまではいかないが、人が歩く事は困難なレベルの風を沙月先輩の歩みに逆らうように発生させる。
(なんだ……?)
その風に正直、私は疑問を覚えた。沙月先輩を吹き飛ばそうと考えているのなら、とっとと超強力な風を発生させればいいだけの話。わざわざ威力を弱めて風を発生させる理由がわからない。そんなことをした所で、どっちにしろ沙月先輩に受け流されるだけだ。
しかし、そんな私の考えは浅はかだったと思い知らされる。
「……む?」
「なっ……」
なんと、沙月先輩の歩みがピタリと止まったのだ。あれよりよっぽど強い竜巻が向かってきても、余裕の表情を崩さなかった沙月先輩の表情が初めて歪む。
「なんですの……?」
沙月先輩が疑問の言葉を漏らす。それも当然、あの程度の風などスキルで簡単に受け流せる。沙月先輩のスキルでなくとも、攻撃ですらないというのに――――
(……待てよ? 攻撃ですらない?)
あの風なら私でも対処できる。攻撃ですらない……攻撃ではない……攻撃じゃない……
「……もしかして」
その瞬間、私は気づいた。あの風の意味に、天子先輩の意図に、
「そういうことですか……!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます