チェス隊同士の戦い
「……なんてこった」
私は頭を抱えながら、静かに誰にも聞こえないように、その言葉を口にした。訓練所の外の観戦スペースで、安全な位置にいるとはいえ、まさか模擬戦の審判になるとは思ってもみなかったからだ。
(しかも……)
「ふーっ……」
「ふふふ……」
天子先輩はストレッチを終え、沙月先輩を睨み付け、沙月先輩はそれに対して不敵な笑みを向ける。かなりバチバチだ。模擬戦とはいえ、激闘になる事は必須だろう。よって注目も集まる。
訓練所の作りは特殊で、おおざっぱに言えばガラス張りの箱。それがいくつも用意されており、1つだけでも大きめの公園位の広さがある。ガラスは特殊なガラスを使用しており、さすがにウルトロンほどではないが、ダイヤモンド以上の硬さを誇る。よっぽど強い衝撃をぶつけないと壊れない仕様だ。
「さて……ルールはどうするの?」
「本格的にするわけにはいかないし……一撃先に当てた方が勝ちでどうかな?」
「ええ、構いませんわ」
沙月先輩と天子先輩によってルールは決まった。お互いに5メートルほど離れて初期位置に着いた。後は私が開戦の合図を送るだけ。
「……お二人とも、準備はできましたか?」
「うん」
「ええ」
「では……試合……」
2人の返事を聞いた後、私は一呼吸置き、しっかりと2人に聞こえるように試合開始の宣言をする。
「開始!!」
試合開始の宣言とともに、天子先輩を中心に竜巻が発生。常人では吹き飛ばされそうなレベルの突風だが、沙月先輩は風の中で平然としている。さすがの体幹だ。
「ふっ……」
天子先輩は充分に回転させた竜巻を横にし、沙月先輩に向かって発射する。その威力は回転させた分、普通に撃ち出すよりも高いものになっていた。
(上手い……!!)
私は天子先輩の戦術に舌を巻く。最初のあの竜巻。あれは風の回転を充分にさせる目的だけでなく、沙月先輩が先制攻撃を仕掛けてきた場合の防御も兼ねているに違いない。自分の身を守りながら、相手の攻撃の準備も整える。まさに攻防一体。理想の動きといえよう。
が、沙月先輩はその場を動かない。人が受けたら細切れ肉になりそうな程の風の竜巻を目の前にして、余裕の態度を崩さない。そして、竜巻が直撃する直前――――
竜巻が意思を持ったように、沙月先輩を"避けた"
「やっぱりか……」
天子先輩はわかっていたかのように言葉をこぼす。すべては彼女のスキル『
スキル名
所有者 王馬沙月
スキルランク hyper《ハイパー》
スキル内容
攻撃を特定の方向に受け流す。もともと発射された方向には攻撃を受け流せない。
これを見た人は驚愕しただろう。それもそのはず、このスキルは攻撃系のスキルにとって……いや、戦う者たちにとっての天敵と言えるスキルだ。
攻撃を受け流し自体に制限はなく、同時にいくつ攻撃が来ても受け流すことができる。それが打撃攻撃だろうが、遠距離攻撃だろうが関係ない。全て受け流せる。
さらにそれだけではない。その真価を発揮するのは多対一の時だ。自分に向かってくる敵の攻撃を受け流し、他の敵に当てることで、1歩も動かずに殲滅が可能になる。
(つまり、天子先輩の攻撃が当たる事は絶対にない)
常人である私から見れば、勝ち目がない勝負に見える。が、勝負を挑んだと言う事はそれなりに勝算があるということ。
(何か策があるのか……)
そう思っている間にも、戦いは激化していく。
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