迎えに行く
あの正方形は体の中に入ったが、特に異常なことが起きた様子は無い。
(本来ならじっくり調べたいところだが……いかんせん時間がない)
もうすぐ派閥側の援軍が到着するだろう。そこで袖女が見つかると面倒くさいことになる。それに、俺はまだ捕まるわけにはいかない。
俺は念のため、3人の持っていた電子機器を破壊し、黒いジャケットを3人の死体がある部屋に脱ぎ捨てた後、袖女のいる入り口まで走る。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
今までの疲労が溜まっているのか、少し走っただけですぐに息切れしてしまう。俺もまだまだということか。
(こんな程度で……)
自分に落胆しつつ、入り口までたどり着くと、袖女に言葉を告げる。
「用は済んだ……っはぁ……すぐに逃げろ」
「ちょっ……いきなりどうしたんですか!?」
息切れしながら話しかけてくる俺は、袖女から見るとかなり異様に見えたらしい。素頓狂な顔をしながら声を出す。
(こいつ結構表情豊かだな……)
大阪にいた時も、いろいろな顔を見せてくれた気がする。
「こんなこと……考えてる暇じゃないな」
「はぁ? だからどういう……」
「簡単な話だ。もうすぐ東京派閥側の援軍がくる。神奈川派閥側のお前が見つかると面倒だ……はぁ……はぁ……」
俺はここで内務大臣と外務大臣を殺した。そんな殺害現場に袖女がいると犯人は袖女なんじゃないかと勘違いされる。それはなんとしても避けるべきだ。これは明確に、黒ジャケットがやったことだと思わせたい。
「そういうことならわかりましたけど……大丈夫ですか? 息が荒いですよ……?」
「いいから……はぁっ……いいから早く行け!!」
なんだ。なんだこの感覚は。胸がきゅうと締め付けられる。耳鳴りがする。これが疲労だけて起こることなのだろうか。
「いややっぱりおかしいですよ!! 一緒に病院に……」
「ダメだ! 東京派閥に病院を調べられる可能性がある!!」
俺が桃鈴才華戦でかなりのダメージを受けたところを宗太郎に見られている。もしそれが上の人間に伝われば、周辺の病院にチェックが入る可能性大だ。
「だから行け! 速く!」
「……でも……でも……!!」
これだけ言っても、まだ袖女は俺の側から当離れようとしない。
(あーもう!! とりあえず何でもいいから……袖女が離れやすいような言葉を……!!)
「大丈夫! 大丈夫だ!!」
「すぐに迎えに行くから」
そうやって、1番最初に思いついた言葉を口にした。
「……!!」
俺の言葉を聞いて、袖女はむくりと立ち上がる。どうやら逃げる気になったようだ。
(よし……後は俺も……)
「……言葉」
「ん?」
「その言葉……信じてますからね?」
袖女はそう言って、遥か彼方へと飛び去った。
「…………」
『……伸太』
それを見送り、見えなくなったタイミングで、目の前に鉄球が出現。ハカセが話しかけてきた。
「お、ハカセ。どうした?」
『ああ……うむ……』
なぜハカセのスチールアイがあるのかと言うと、謎の人物がわかった時、一緒に連れて行ってほしいとハカセに頼まれて、俺の髪の毛の中に小さくなったスチールアイを隠していたのだ。
故に謎の人物からこの騒動の犯人まで、全てをハカセは俺とともに見て聞いていたわけである。
そんなハカセが鉄球を見えるように大きくして俺に話しかけてきたのだ。何か重要なことに違いない。
ハカセは少し間をおくと、ゆっくりと言葉を発した。
『オヌシも……男じゃな……』
「……へ?」
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