(あ……ミスった)


 女から放たれた一言。その一言は俺の琴線を鷲掴みにした。


 その結果、女の四肢を切断。同時に大量の血が溢れ出る結果になってしまった。


「あ、ああぁぁ……ああああああ!!!!」


 外務大臣は今目の前に起きている光景が信じられないのか、じたばたとまるで子供のように床を転がる。


 そんな時、俺はというと……


「あーあ、料理にもかかっちゃって……後でつまみ食いしようと思ってたのに」


 料理に血がかかってしまい、食べられなくなったことに落胆していた。


 いや結構ガチで食べたかった。いくら大阪でかなり稼いだといっても、こういうのはめったに食べられない。少し体験しておきたかった。


「……ま、いっか。どうせいつか食うし」


 俺はそう割り切り、外務大臣の方へ目を向ける。


「さて、外務大臣……初対面だけど、よくも俺にこんなことをしてくれたな……」


「あ、あああ……ああああああ」


 外務大臣と名前だけはいっちょまえだが、今目の前で転がる姿はまるで赤子のよう。こんなやつにいいようにされていたと思うと、まだまだ自分も修行不足だと思わせられる。


「さて……」


 俺は食用のナイフを外務大臣の手に向かって発射する。


「ぎゃっ!?」


 それは見事、外務大臣の手の甲に直撃し、貫通して床に突き刺さる。それによって外務大臣の動きをピタリと止めた。


「さて……ぼくくぅ〜ん」


 俺は食器を全て割り作り上げた食器の破片をスキルで浮遊させ……





「お注射、何本耐えられるかなぁ〜?」





 発射した。









 ――――









「それ1本! あ〜それもう1本!」


 俺はリズムに乗りながら、食器の破片を次々と外務大臣に突き刺していく。


 既に外務大臣には大量の食器の破片が突き刺さっており、そこから溢れ出る血がまるで湖のように広がっている。


「おぐぁ……ひゅー……」


「ふぅ〜……もういいかな。反応も返ってこなくなったし」


 もはや何もせずとも助からないだろう大量の血が溢れ出た外務大臣に対し、ダメ押しと言わんばかりに首を切断し、確実な止めを刺す。


(これでよし……さて、次は内務大臣……)


 内務大臣はどうやって殺してやろう。そう考えつつあたりを見渡すと……


(……ん? さっきまでそこら辺で……)


 そこらに転がりまわっていた内務大臣の姿が確認できない。俺としたことが逃してしまったのだろうか、脱出経路は入り口しかない。だとしたら袖女が見逃さないはず。


(隠れているな……無駄なことを……)


「動くな!!」


 店内を探そうとした時、それに反応するように、内務大臣が拳銃を片手に俺の前に立つ。


(そらきた……)


「馬鹿か? そんな拳銃ごときで俺がビビるわけないだろ」


「ふふふ……かもしれませんね。ですが、これならどうです?」


 内務大臣はポケットの中から、おもむろにスマホを取り出し、俺に見せてきた。


「……あ?」


「あなたのことを全て本部に連絡しました……もちろん、黒ジャケットの正体が田中伸太であることも」


「……なるほど」


「そもそも田中伸太は指名手配されていました……表向きは保護という理由でね……ま、世間は黒ジャケットの衝撃で全く注目されませんでしたが……しかし、黒ジャケットの正体があなただとわかった以上、保護という理由を使う必要はもう無い。田中伸太という名前は、次こそ東京中に広がっていくでしょう。私をここで殺したとしても……あなたにはもう、安心して暮らせる場所はない」


「……だろうな」


「……嫌に冷静ですね。正体がバレたというのに」


「ん? ああ……いつかはバレると思っていたからな……それが今だったんだけだ」


「ほう……なかなかいい考えを持ちのよ「それに……考えてたんだ」……何?」



「あんたの殺し方を……ね」



 瞬間、机が急激に移動。内務大臣に向かって激突した後、床に伏した内務大臣の上にのしかかる。


「ウがっ……がぁっ!!!!」


「ひどいもんだよな……体を入れ替えられるなんて」


 俺が話している間にも、どんどん机の圧力は強くなっていく。肉がちぎれる音、血が体から噴出する音が聞こえる。


「お……おいやめろ! やめろ!! 私を誰だと思っている!!?」


「本当にきつかった……それと同時に、良い体験をさせてもらったよ。体が変わるなんて、またとない経験だからな」


「いだい!! いぎぃ!? 私は……ワタシばぁ!!!!」


 骨の折れる音が聞こえる。肋骨あたりが逝ったのだろう。肉のちぎれる音は休む暇もなく鳴るようになった。


「だからさ……俺もアンタに体験させてあげようと思うんだ」


「わ、だ、じわ、はぁあぁあぁ!!!!」





「煎餅になる体験を……さ」





 ズン、と大きな音とともに、内務大臣は完全につぶれた。そして、それを魅せ……いや、見せつけるかのように、机の下からは大量の血が滲み出ている。


「ふー……」


 やり切った。目標を達成した時のこの達成感。何度味わってもなれないものだ。


(おっと、浸っている場合じゃないな。そろそろここから離れなくては……)


 内務大臣の言うことが正しいのであれば、もうすぐ援軍が到着する。さすがの俺でも、この状態で援軍を迎え撃つのは正直厳しい。脱出するのが最善手だ。


 しかし、その時だった。


「……ん?」


 目標を達成し、ここから脱出しようとした俺を遮るように、謎の物体が俺の前に立ちはだかる。


 その姿は正方形で表面は黒く、紫のオーラを放っている。強いて言えば、闇の色といったところだろうか。ふよふよと空中を浮遊しており、怪しい雰囲気をかもしだしている。


「……なんだ?」


(内務大臣の言っていた援軍か? ……まさか、新兵器?)


 俺は立ち止まり、思考を張り巡らせる。



 それがダメだった。



「……っな!?」



(割れて……!?)



 俺が考えている間に、正方形は4つに割れ、小さな4つの正方形となり、こちらに向かってくる。その速度は決して早くはない。だが、手負いの俺を驚かせるには十分なスピードだった。


「やらせるかぁ!!」


 それに対し、俺はいくつかの食器を俺と分裂した4つの正方形の進行方向に設置する。正直言って食器程度で防げるかはわからないが、俺が離れる程度の時間ぐらいは作れるはず。



 しかし、その予想は見事に打ち砕かれることになった。



「な!?」



 なんと、その分裂した正方形はその食器を壊すことなく、"すり抜けて"きた。


 そして俺も、すり抜けの例外ではなく、4つとも俺の体をすり抜けて――――



 ずぶり。



 前言撤回。俺は例外らしい。本能でわかる。俺の体の中に"入られて"いる。


「……っ!?」


 こういうのには、何か痛みがつきものだ。俺は腹を押さえ、次に来る衝撃に耐えようとする。


「……? ……???」


 ……が、起きない。体中をチェックしてみたが、特に異常はなさそうだ。



「なん……なん、だ?」



 そして、運命は近づいていく。

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