楽しい楽しいお祭りは終わった ショータイムだ

「なっ……!?」


 内務大臣が振り向いた瞬間、俺は包丁を浮かせて内務大臣の片腕を切り裂く。


「いぎっ……!? ぎぁぁぁぁぁぁぁ!!?」


 するとどうだろう。ついさっきまでの自信ありげな顔はどこへやら、顔を醜く歪ませ、フンコロガシのようにあたりを転げ回る。おおよそ大の大人がとる行動とは思えない。


「どうしたどうした? ここは料亭だぞ? マナー違反だと思うんだが?」


「き、貴様……!」


 外務大臣は俺の姿を見て驚愕している。俺がここにいるのがありえないといった顔だ。


「はじめまして外務大臣。俺の名前は黒ジャケット――」


 喋りながら、俺はゆっくりとフードを取り……



「そして――――藤崎剣斗の体を持つ……田中伸太だ」



 初めて自分の正体を明かした。


「やはりか……!」


 外務大臣はそれに対して、まるで正体が俺だと目星をつけていたようだ。


(やはり……たいていの目星はつけていたようだな)


「……驚かないんだな」


「目星はつけていたからな。そのくらい当然だ……しかし」


 そう言うと、外務大臣は俺をさらに強くにらみつける。


「……なぜ貴様が生きている!! 報告によれば、貴様は死んだはずだ!!」


 どうやら外務大臣にとっては、俺の正体よりも、俺がなぜ生きているのかが疑問らしい。


「それに……彼女はどこだ!? どこへ行ったんだ!!」


 それを聞いて、俺はため息をつく。東京のトップはそんなこともわからないのか。


「……簡単なことだよ。彼女のスマホから俺がニセのメールを送ったんだ……ほら、証拠もここに」


 俺は外務大臣に兎女のスマホを投げる。外務大臣はそれを確認し唖然としているようだった。


「ま、まさか……そんな……」


 さすがの外務大臣もこれが何を意味するか理解できたらしい。


「ま、そういうことだ……潔く生きることを諦めるんだな」


 俺は料理が盛られていた器を浮かし、外務大臣と、痛みでいまだに転げている内務大臣に向ける。


「お、おい! お前たち! 侵入者だ!! 今すぐ来い!!」


 外務大臣は出口のほうに向けてそう言い放つ。料亭の入り口にいたボディーガードを呼ぶ気なのだろう。


 はっきり言って、ダメージが体に蓄積されている状態の俺では、ボディーガードが数人いるだけで結構きつい。これ以上戦いたくないのが本音だ。


 が……


「な、何故だ……なぜ来ない!?」


 いつまでたってもボディーガードがこちらに来ない。外務大臣は今、さぞかし焦っていることだろう。


「…………」


 さらに深く絶望させるために、俺はある一言を外務大臣にぶつける。


「……何故、俺はボディーガードがいる料亭の中に入れたんだろうな?」


「……あ」









 ――――









 同時刻、料亭の外。


「……はぁ」


 私、浅間ひよりは深くため息をつき、あたりを見渡す。


 そこにあるのは人の死体。数にして10人ほどだろうか。


 もちろん自分が殺したわけではない。あくまで囮になっただけ。殺したのはあいつだ。


「……はぁ」


 ボディーガード単体はそうでもなかったため、私に攻撃している間に死角から刃物でブスリである。


「……はぁ」


 私は立場的に無理だろうと言われ、囮を任された。つまり実際に殺してはいない。だが、殺しに加担してしまった。その責任は多少なりともある。


「……はぁ」


 その証拠に、今4回目のため息を吐いたところだ。


 そもそも囮係とはいえ、なぜこれを了承してしまったのか。というかそれ以前に、なぜ兎の女を殺害したあの時、ついていくなんて行動をとってしまったのか。


(なんでかなぁ……)


 大阪の頃からそうだ。彼のやることなら許してしまう。彼に任されたことなら――――


「っ!! いや……いやいやいや……」


 そんなことはない。彼とは少し縁があるだけ。ただそれだけ、それだけなんだ……だからわからないんだ。





「あぁこれだ……いつもこれだ」





 彼といると……心が変になる。

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