楽しい楽しいお祭りの終わり やっと。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
走る走る走る。常にフルスロットル。常に全速力。もう少しゆっくり走ればスタミナは持つが、あの衝撃的なシーンを見てしまって、自分の足が自分の言うことを聞かず、逃げろ、逃げろと訴えかけるように、あの場から離れていく。
目指すは東京派閥本部。この最悪の事態を、この目で見たものを事細かに伝えるために、私は走らなければならない。多少ダメージはあるが、私なら間に合う。
(はやく……!! 手遅れになる前――――)
……見つからなければ。
「……にギッ!!!?」
急に地面へ叩きつけられ、思いっきり頭をぶつける。
地面へ頭をぶつけた衝撃で頭がクラクラする。一瞬でも気を抜いたら意識を飛ばしてしまいそうだ。
「……これでいいんですか?」
「……ああ、バッチリだ」
そして、このタイミングで私を止める人物など、考える必要性もなかった。
「よう。よくもやってくれたな? 兎女」
死神がそこにいた。
――――
あの後、謎の人物が兎女であることを確信した俺は、すぐに袖女を連れて兎女を探した。
俺の読みでは、兎女はそこまで離れていない。兎女の任務が俺を殺害することなら、少なくとも桃鈴才華との戦いまでは俺は近くで観察していると思ったからだ。
案の定、2人で空中から周りを見渡すと、1人だけ不自然に黒いジャケットを着た人物がかなりのスピードで文化祭から離れていた。
その人物を捕縛し、正体を確認して……今に至る。
「くそっ……!! どうして……」
「残念だったなぁー?」
「…………」
兎女の悔しそうな声に対し、俺は煽り、袖女は黙りこくる。袖女には正体がばれぬよう、近くのゴミ捨て場にあった布を身につけ顔を隠し、しゃべらないようにしてもらっている。
「ぐ……!!」
兎女は身をよじり、上着のポケットへ手を伸ばす。
「そこだ」
しかし、それを見逃さない俺ではない。俺が場所を示すと、それに呼応するように、袖女が兎女の腕を拘束する。
「しまっ……」
「このポケットの中身は……やっぱりスマホか」
おそらく、兎女の所属している組織に連絡を入れようとしたのだろう。
(ロックは……指認証か)
「……所詮お前も、組織の犬なわけだ」
これさえ確保できれば、もうこの女に意識は必要ない。この女の指だけあればそれでいい。
「さて……どうやって殺そかな」
「ヒッ……」
俺の口から出てきた殺すと言う言葉。それに兎女は恐怖を感じたのだろう。体が小刻みに震え始めた。
「たっ……助け……」
「でもお前、俺を殺そうとしたんだろ?」
「わっ……私は命令されただけで……そんな、殺そうだなんて……」
「はいはい。ただでは楽に死なせないからなー」
そういうと、俺はエリアマインドを発動。ゴミ捨て場にあった大きめの石で、兎女の頭を無造作に叩く。
「あっ……が」
もちろん、その1回で終わるわけがない。何度も、何度も何度も、石で頭を叩き続ける。
「あっ……はが……ひぎぃ……」
頭蓋骨を砕いてしまわないように、ヒビを入れる程度の強さで叩き続ける。今頃兎女の頭はヒビだらけ。頭の中から刺されるような激痛で苦しんでいる事だろう。
(何より……苦痛に歪むこの顔……)
やはりたまらない。相手に圧倒的な力の差を見せた時のあの表情。なんとも快感だ。
もう少し楽しんでいたいが、ここは何でもない道路の真ん中。文化祭での騒動で人はいないが、完全にいないとは限らない。この現場を発見されると面倒だ。
俺はクイッと人差し指を下げると……
「ぴぎょっ……」
石を最高速度で落下させ、頭を粉々にした。
「ふぅ……」
なんとも呆気ない幕切れだ。俺を狙う人物が分かった瞬間、ものの数分で掃除することができた。
犯人の組織は俺の体を入れ替える技術は凄まじいものだったが、どうやら人員には恵まれなかったらしい。
(こいつ程度の力の持ち主で俺が止められると思われているとはな……)
この程度で俺が止められてなるものか。俺の復讐はまだ終わっていない。あの程度で桃鈴才華が折れるわけがない。
あの時は、室内と言う桃鈴才華のスキルが使いづらい環境と舐めプがあったから勝てただけだ。もっと完膚無きまでに、心の根をへし折ってやらねば俺の復讐は終わらない。
「それで……なんでわかったんですか?」
そう思っていると、袖女が俺に声をかけてくる。言葉足らずだが、なぜ謎の人物ががわかったのかと言う問いかけだろう。
「簡単な話だ。相手側は大きなミスを残したんだよ」
俺はスマホを取り出し、袖女に見せる。
「これって……」
その画面に、写真を映し出して。
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