楽しい楽しいお祭りの終わり 傷跡

「……は?」


 なんだこの光景は。なんでこんなことになっているんだ。

我らの頂点、桃鈴才華。彼女は負けてはいけない。常に弱者を上から見下ろし、手を差し伸べる。我らにとっての究極。我らにとっての超常的存在。


 それが桃鈴才華。それが東京の頂点。


(だめだ……)


 だから……


(だめだ……)


 だから……



(このお方が見下ろされることなど、あってはならない!!)



「ああああああ!!!!」



 黒ジャケットに対して、スキルを発動した。









 ――――









(あ、あ……ああ……)


 ワシは夢を見ているのだろうか。


 あの桃鈴才華が、あの伸太の手によって地に伏した。


 本当に夢なのではないかと思い、ほっぺたをつねってみるが、しっかりと痛い。どうやら現実のようだ。


(間違いない。ワシが見たあの光景は――夢ではない)


 あの瞬間、桃鈴才華に放ったアッパーが――――確かに曲がったのだ。


(伸太はあの時……"通常"ではありえない行為をしたのじゃ)


 桃鈴才華が顔を逸したのを認知した瞬間、あやつは拳のインパクトの前に、エリアマインドで浮かべた瓦礫を最高速度で自分の腕にぶつけ、自分で自分の骨を折り、拳を曲げることでガードを掻い潜って顔面に拳を叩き込んだ後、そのまま放った肘打ちを、再度同じ方法で自分の骨を折り、ガードを無視して顔面に直撃させることに成功したのだ。


(拳が曲がり、顔にヒットする……理論は間違っていない……じゃが……)


 自分の腕の骨を自分で折ると言うその意味。その行為には、途方もないほどの覚悟がいる。



 それも2度も……


(字面だけ見れば、そこまでの事ではない……じゃが、それにはどれだけの……)


 敵に対してどれだけの執念があれば、そのような行為ができるだろう。どれだけの執着があれば、自分の骨を2度も敵に捧げることができるのだろう。


 これはある種の執着だ。敵に対する異常なまでの執着じみた覚悟。


(……ッ、やはりこやつは……!!)


 ワシは伸太のその姿に対し、やはりそうなのだと確信した瞬間……


「ああああああ!!!!」


『なっ……!?』


 瓦礫やら何やらで砂煙が待っている職員室、その中で砂煙を抜け出し、橋波宗太郎が伸太に切りかかろうとしているのがわかった。


(いかん!!)


 今の伸太は片腕をなくしもう片方も使うことができない状態にある。攻撃されれば、今の伸太にその攻撃を防ぐ手段はない。


『黒ジャケット!!!!』


 ワシは思わず声を荒らげた。









 ――――









 勝った。


 考え得る限り最悪のコンディションだった。勝てる確率など万分の一もなかった。


(だけど……)


 勝っ――――


「ああああああ!!!!」


(まずっ……)


 急ないきなりの攻撃。普通の体ならどうにかできただろうその攻撃速度。しかし、体は動かない。

 もとより、もう先のことは考えない覚悟で桃鈴才華から勝ち星を奪ったのだ。


(もう、指一本も――)


 動かせない。そう思ったその時だった。



「なっ!?」



『ぬおっ!!』



「……あ」



 職員室の床に急にヒビが入る。地震の予兆などもなかった。窓を見てみても、周りの人が驚いているような様子が無いことからも、職員室を狙った攻撃だということがわかる。


(これは……この表面しか傷つけない攻撃は……)


 橋波やハカセからすれば、一体誰に攻撃されたのかわからないだろう。



 だけど俺にはわかる。この攻撃の意図は一体なんなのか、この攻撃は誰が放ったものなのかも。





 そしてすぐに……その声が聞こえた。





「ほら……行きますよ」



「ああ……悪いな」


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