楽しい楽しいお祭りの終わり 上の、さらにその上を
『なっ……!!』
驚愕するしかなかった。伸太のスキルを使った、今のコンディションで考えられる最高の一撃。スキルでパンチスピードが上がったことにより、威力も増加している。当たれば、当たれば間違いなく、その一撃で勝負が決まっていただろう。
そう……
"当たれば"
(拳を見ずに……回避行動じゃと!?)
なんとこの天才は、伸太から目線を離さず、アッパー攻撃が当たる前に頭を右に逸らし、剣でカウンターを合わせてきたのだ。
(そこまで……そこまで差があるのか!?)
回避すること自体、簡単に見えるがその実、回避と言う行動は、ガードよりも、何よりも最強の行動だ。
それを見ずにやってのける。桃鈴才華の天才性が伺える一手だった。
見ずに回避できた理由は、おそらく桃鈴才華のスキル、精神力放出によるものに違いない。
あのスキルは人の気配を精神の色で見ることができる。どういう形で人の精神力がわかるのかは不明だが、あの回避行動を見るに、人の体がはっきり見えるのだろう。
(つまり桃鈴才華は、目を閉じていても360度、すべての方向の敵を感じ取り戦うことができる……)
隙がない。正しく鉄壁。
今伸太がやっているのは、鉄製の金庫の壁におもちゃのスコップで穴を開けようとしているようなものだ。
絶対に不可能。
しかし、一度発射した拳はもう止まらなない。
真っ直ぐと、勢いよく、頭のすぐ横を狙って拳が進んでいく。
あの拳が桃鈴才華の顔の横を通過した時、剣によるカウンターが炸裂し、伸太は間違いなく倒れる。
(伸太が……負ける?)
考えもしなかった。
苦戦するとは思っていた。ただでは済まない戦いになるのは、文化祭を勧めた時に感じていた。
……ただ、それでも。
(頼む……)
絶対的に不利な状況だったとしても。
(頼む!!)
ワシはワシだけは……
『信じるぞ!!!!』
あやつの勝利を。
そして……その願いを、願望を、伸太は裏切らなかった。
「曲がれええぇぇぇぇ!!!!」
――――
(また……またか……)
また出た。今回の戦闘、黒ジャケットはいつも攻撃のタイミングをずらしてくる。
(もう慣れたよ……)
正直、急に攻撃のモーションをとってきた時は度肝を抜かれた。もう片方の腕を使わず、私の"わざと"急所を外した致命傷にならない攻撃をもろに受けて血まみれになったのを見て、その一撃に懸けているんだろうと言うのも理解できた。
……正直、黒ジャケットがその姿を隠さず、真の姿で向かってきているのなら、その一撃を貰ってあげたい気持ちもある。
だけど、今の彼は彼じゃない。黒ジャケットだ。東京派閥の敵だ。僕は敵にだけは負けてはいけない。
(でも……殺すのは……)
だから早く、血が出過ぎる前に早く。
(もう、倒れて――――)
僕のアゴに向かって放たれたアッパーに対して、事前に回避行動をとりつつ、脇腹めがけてカウンターを放って――――
「……ふぇ?」
私の目には、白い天井しか映らなくなった。
「あ……が?」
瞬間、プチリと音が聞こえると同時に、体を妙な感覚が襲う。脳が震え、正常な反応をしなくなる。動かそうと命令を出しているのに、体が動いてくれない。
この感覚に襲われたと同時に理解した。
(僕は……貰ったのか……アゴへのアッパーを……)
受ける気など毛頭なかった。貰う気など毛ほども無かった。確かに回避したのに。
超えられた。
(だめだ……超えられちゃ……)
そんなことを思っている間にも、アッパーで僕の頭より上に上がった腕をそのまま振り下ろし、肘打ちを僕の顔面に当てようとしてくる。
だけど、僕は応援されているんだ。
(負けちゃ……いけないんだ!!!!)
気合だけで、無理矢理腕を動かす。黒ジャケットがあそこまで傷ついて尚、動いているのだ。僕にできない道理はない。
(動けっ、動け〜!!)
その思いに体が答えたのか、もう動けないはずの腕が僕の顔を覆い隠す。
完全なる防御体制。単純な肘打ち程度なら、打ち込まれても大丈夫。
(耐えた後は、一旦距離を取り直して――)
そして、その肘打ちは見事に……
顔面に直撃した。
「は……がぁ……?」
嘘だ。信じられない。そんな思いとともに……
「腕が……曲がった……」
僕の視界は、暗転した。
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