楽しい楽しいお祭りの終わり 全てを投げうってでも その2

 体力も残り少ない。というかそもそも最初の段階から肉体の差がひどかったこの戦いだが、ついに俺の体力はなくなりつつあった。


(そろそろ本当にまずい。早めにケリをつけないと……)


 瞬間、桃鈴才華が急激に接近。俺の手前でブレーキをかけて、今度は上から剣を降り下ろそうとしてくる。


 だが、俺もそれに対抗し、剣を振り下ろしてくるタイミングに合わせて拳でカウンターを取ろうとする。

 このまま直撃すれば、桃鈴才華自身のスピードによって凄まじいダメージを負うことになるだろう。


 しかしそこは桃鈴才華。首をぐりんと回し、まるで腕にまとわりつく蛇のように、腕の周りを一周。見事に俺のカウンターを回避してきた。


 俺はそのまま斬撃をまともに受けてしまうが、何故かさっきと同じように見た目だけ。中身の内臓や骨まで到達していない。


「ちぃ……」


 ダメージはダメージ。出血により少しめまいがしてくる。


(だけど!!)


 そんなことに構ってられない。桃鈴才華は続けて接近戦を仕掛けてくる。俺もそれに対応し、接近戦が始まる。


 1度目の接近戦は負けと言って良い結果に終わっている。1度目の接近戦以上に肉体的なダメージが大きい今の状態では、結果は目に見えているが、それに応じるしか今の俺には手がなかった。


「ふぅぅ……」


「ぐぎっ……!」


 目にも止まらぬ超高速の乱打戦。俺の拳を剣で守り、相手の剣撃を何とか回避する。


 ただやはり、わかりきっていたことだが、圧倒的にこちらが押されている。手数も威力もあちらが上回っていた。


 それに加えて剣のリーチが厄介だ。あちら側はどんな体制からもこちらに攻撃が当たるのに対し、こちら側は剣のリーチの分、体も一緒に前に出さないとパンチが届かない。

 かといって、体を近づけると、剣がより当たりやすくなってしまう。今でさえ回避するのにかなりの神経を削っている。つまり、無鉄砲にパンチを連打するのは愚策。


(一発ずつ……じっくりゆっくり……)


 ちょっとずつ、明らかな隙を狙って手を出す。それ以外は全て回避だ。闇雲に手を出す必要は無い。


(隙を狙って……)


 桃鈴才華が剣を振るい、大きな風のアーチを描く。


 チャンスかと思ったが、剣を攻撃できる位置まで戻すスピードが早い。普通なら大振りで攻撃した後に大きな隙ができるはずなのに、それがほぼない。桃鈴才華の前では、そんなもの隙ではないと言うことか。



 剣で連続攻撃をしてくる。隙はない。



 右左上下とすべての方向から不規則に攻撃が行われる。隙はない。



 剣の振りがコンパクトになり、ただでさえ速い剣撃が更に速くなる。大量の切り傷を体に付けられるが、隙は見えない。



(隙を見せた時だけ……隙を見せた時だけだ)



 剣を両手で振るうのを辞め、空いた片手で拳を作り、俺に向かってパンチしてくる。一撃の威力こそ下がったが、攻撃回数が増し、ただでさえ見えなかった隙が、そもそも隙なんて存在するのかと思うほどになった。



 さらに剣が速くなる。隙がなくなる。さらにさらに剣が速くなる。隙がなくなる。さらにさらにさらに剣が速くなる。隙がなくなる。さらにさらにさらにさらに――――



(ないじゃん。隙なんて)



 時間をかければ、いつか隙は生まれる。今まで俺の前に立ちはだかってきた敵がそうだったように、慢心や体力切れ、心の余裕によって体の動きに多少なりとも隙が生まれる。そう思っていた。


 ……が。


(見えねぇ……)


 見えない。隙がない。


 しかし、疑問に思う点が1つある。こんなにも時間が経てば、急に速度を上げて反応を遅らせ、致命的を一撃を加えられるはず。

 そもそも接近戦になる前のもろに受けた剣撃の時点で、体を大きく前に倒せば、内臓ごと体を切り裂き、その時点で戦闘不可能になるほどのダメージを与えられたはず。わざわざ踏み込まず、骨にすら干渉せず、表面の肉のみを切り裂いた理由とは……





(……まさか)









(わざと手加減しているのか?)

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