楽しい楽しいお祭りの続き 人違い

「……へ?」


 どこからか聞こえてきたその声に、俺はピクリと反応する。


「……え?」


 だって、その声は目の前の偽黒ジャケットではなく――



「あ、あの……」



 その後ろにいた、小さな男の子だったのだから。


「……ッ!」


 しかし、偽黒ジャケットから見れば、後ろから何者かにこの現場を見られたのと一緒。その存在は後ろにいるため誰かも確認できない。


「お、おい!?」


 故に、偽黒ジャケットが後ろの人物を確認せず、振り向きざまにその腕で攻撃するのは仕方のないことだった。


「ッ! しまっ……」


(あの馬鹿……!!)


 一度打ち込んでしまった拳は、ただでは止まらない。車のブレーキのように、すぐには止まらないのだ。


(あーもう!)


 昔の俺でもあるまいし、正直あのまま殺しても構わないのだが、何も知らないそこら辺の子供を何の意味もなく殺してしまうのはさすがの俺でも気が引ける。


(殺して騒動になっても困るしな!!)


 と言うわけで、あの小さな男の子を救おうとしよう。


「行けっ……」


 俺は事前に用意しておいた複数個の小石を、偽黒ジャケットの拳の手首に向かって発射する。


 俺の発射した複数個の小石の弾丸は、見事に偽黒ジャケットの手首に命中。そのまま腕輪のようにびっしりと腕の周りに固定された小石は、そのままガリガリと偽黒ジャケットの手首に傷を作りながら、その拳を止めるためにその腕にへばりつく。


 列車を題材にしたパニック映画によくある、「何かを引っ掛けて列車を止めよう!」と言うあれと同じ原理だ。


(まぁ、見てくれは悪いがな)


 腕に切り込みが入っていくその様子は、その形状からところてんを連想させる。見る人が見れば気持ち悪がるだろう。


 しかし、そんなことをした甲斐もあって、男の子に向かって発射された拳は、その手前でピタリと止まった。


「……」


「えっ……あ、あの……」


「はいはい握手ね……ほい」


 俺は右手を出したまま、何が起きたのかわからず動揺している男の子を気にせずに、そのまま差し出された右手に手を伸ばし、そのまま握手する。


「あっ……神奈川の時から見てます!! 頑張ってください!!」


「……ああ」


 男の子はそれだけ言って、向こうへ行ってしまった。


(おお……)


 なんだか不思議な感覚だ。


 誰かに応援される。それは昔の俺も、無論今の俺も体験したことのない事。俺の心の中は、感じたことのない感情にむずむずしていた。


 どんな感情かわからない。しかし、特別な感情だとははっきりとわかる。そんな感じだ。


 そんな感情に浸っていると、偽黒ジャケットが俺に声をかけてくる。


「……あの子、殺さないでいいの?」


「あんなに小さい子なら問題ないだろ。もしばれても構わん。どうせ警備員にはもうバレてるんだからな」


 警備員たちの前であんなに堂々と戦ったのだ。

 もしあの子から俺たちがいると言う情報が露出しようが、どうせバレている。たいした情報にはならないはずだ。


「……意外だ。女子供関係なく殺す人だと思ってたけど」


「殺すさ。殺す理由があるならな」


 女も子供も容赦なく殺す。それをやる覚悟はある。


 しかし、意味のない殺しは俺の居場所を露呈させるだけだ。


「……で? お前は一体誰なんだ?」


「……やっぱいい。話す気なくなった」


 偽黒ジャケットはそう言い放った後、くるりと後ろを振り向き……


「あ、私はあなたの敵じゃないから、そこは安心してね」


 そうして、偽黒ジャケットは空へと飛んでいった。





 2日目の終わりは近い……

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