楽しい楽しいお祭りの続き 決着と……
「うぐ……あ……」
騎道優斗は腹に突き刺さった俺の腕を一瞥すると、こちらを射殺さんと言わんばかりにこちらを睨みつけてくる。
(まぁ……睨みつけるだけだから怖くはないな)
睨み付けるだけで人を殺せるならここまで作戦立てて大変なことをしていない。人生そううまくはいかないのだ。
(……が、今回は……俺に流れが吹いたな)
俺が腕を引き抜くと、騎道優斗は気絶したのか、水で流されたかように落下し、大きな音を上げて地面にぶつかった。
「……うぇ、きったね」
俺は手にまとわりついた血を払いながらも、落下した騎道優斗からは目を離さず、どう殺すか考えていた。
(あえて胸じゃなく腹をぶち抜いたんだ……さすがにまだ死なないだろ……)
騎道兄弟が2人とも死ぬ寸前で横たわっている。こんなチャンスは二度とないと断言していいだろう。ここでぜひとも見るも無残に、かつ死ぬギリギリまで痛めつけ、意識があるまま殺してやりたい。
まずは騎道優斗だ。俺はそばまで近づくため、足場にしている瓦礫を下に下げて……
「……ッ! 今頃になって……」
戦いが一通り終わり、冷静になったことにより、一気に痛みが襲ってきた。
今考えてみれば、腕を切り落とされ、耳を削がれているのだ。本来襲ってくる痛みは尋常ではない。
その痛みを戦闘中の興奮とアドレナリンの2つでなかったことにしていたのだ。その2つがなくなった今、俺の脳に襲ってくる痛みの信号は並みのものではない。
それはまるで機械がショートしたかのように、バチバチと大きな電流を思わせるほどのものだ。
(チィ……!!)
しかし、俺はそんな痛みを体に抱えながらも、少しずつ少しずつ騎道優斗に近づいていく。
俺の復讐はこんな痛み程度で止まりはしない。このレベルの痛みなど覚悟の上だ。
この瞬間をものにするために、今まで大阪や神奈川で実戦を積み、今日この日まで泥水をすすってきたのだ。
そんな思いを胸に、俺はついに騎道優斗のそばまで近づいた。
(しかし、よく見ると……俺が手を加えるまでもなく、ひどい有様だな……)
口からはかろうじて呼吸する音が聞こえるが、腹から間違いなく致死量と思えるほどの血がたっぷりと流れている。時間が経てば、俺が手を加えるまでもなく死に至るだろう。
(これは丁寧に痛めつけないとな……)
俺はそう考えつつ、騎道優斗の右腕を掴み……
「ふんっ」
骨を折った。
「ぎっ……ぎゃああああああ!!!!」
骨を折った瞬間、今まで腹から血を出していたのが嘘かのように、大きく声を上げて絶叫する騎道優斗。きっとその心の中は、深い痛みと絶望で染まりきっていることだろう。
……しかし、俺の心の中はまるで真逆。
(ああ……気持ちいいぃぃ〜!!)
すばらしい。何と言う晴れ晴れした気持ちだろうか。騎道優斗の叫び声がまるで美しいオーケストラ、流れ出る血はレッドカーペットを思わせる。なんて美しい光景だろうか。
騎道優斗が血を吹き出しながら痛みに叫ぶ。
芸術の知識がない俺でも、この光景は美しいと思えた。
(俺の目当てはどちらかといえば騎道雄馬だが……お前も邪魔だなと思ってたんだ……きっちりやらせてもらおう)
それに騎道優斗にとっても、実の兄弟が殺されたことによるショックはかなりのものだろう。
(どちらにしろ……護衛騎士団の4人は遠慮なく殺す予定なんだ。順序が変わるだけだな)
そう考えつつも、俺はもう片方の腕の骨を折るため、騎道優斗の左腕に手を伸ばす。
「待て!!」
「……あ?」
瞬間、後ろから声が聞こえる。
「お、お前……黒ジャケットだな!?」
(あ? ……ああ、警備員か)
そこにいたのは警察っぽい服を身につけた警備員。しっかりと構えをとり、両手で握る拳銃の銃口をこちらに向けていた。
しかも……1人ではない。
「両手を上げろ! お前は包囲されている!!」
気付けばいつの間にか、周りに大量の警備員が並んでいた。全員が全員拳銃を持ち、銃口をこちらに向けていた。
(ハイパーはいないだろうな……いてスーパーか)
なら問題ない。これ以上ハイパーが現れていればわからなかったが、スーパーなど今の俺にとっては有象無象に過ぎない。無駄に命を散らしに来ただけだ。
「無駄なことをっ……ッ!」
攻撃しようとした瞬間、頭に強いめまいが走る。ぐらりぐらりと足がよろめき、思わずしゃがみ込んで手をついてしまった。
(まさかこんなところで……!!)
腕や耳を斬られたことによる出血多量を無視したツケがこんなところで回ってきた。おそらくは貧血によるめまいだろう。
だが、こんなところで止まってはいられない。体が動かなくなったわけではない。ただ単に体がぐらつくようになっただけ。そんな程度、気合でどうにかなる。
「や、やつは消耗している!! 今しかない!! 撃てー!!」
(無駄なことを……するな!!!!)
俺は周りの地面を持ち上げ、攻撃を回避しようと――――
突如、大きな爆音。大きな砂埃が舞い上がる。
「なんだ!?」
警備員も驚いていることから、警備員側の策略ではなく、砂埃が舞い上がったところを見るに、上から何かが降ってきたと考えるべきだろう。
……が。
(なんだ……一体……)
砂埃が晴れて……
そこにいたのは、俺が1番よく知っている、俺が知らないわけがない1人の人間の姿。
(……は?)
「なっ……!? なんで、どうして……」
そこにいたのは――――
「なぜ……」
「なぜ黒ジャケットが……2人いるんだ!?」
俺自身――黒ジャケットだった。
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