楽しい楽しいお祭りの続き 展開

 倒せないなら吹っ飛ばせばいい。


 大阪にいた頃、いずれ来るであろう騎道兄弟への対抗策を少しばかり考えていた。

 ディルヴィングと村雨。どちらも同じ剣だが、どちらも全く違う。似て非なる力を持っている。


 すべてを切り裂く力と水を操る力。どちらも全く違う力であり、そのため、どちらにも対抗策を用意する必要があった。


 村雨の方は正直言って、対策自体は簡単だった。遠距離から攻撃すればいいだけの話。反射でそこら辺の瓦礫をぶんなげれば対応できないこともない。

 それが実戦で通用するかはさておき、遠くから攻撃すれば理論上は勝てる。相手はもともと格上。勝てる可能性があるだけで十分だ。


 しかし、問題は騎道優斗。弟の方が問題だった。


 ディルヴィングがとんでもないほど厄介すぎる。どんなに遠距離で攻撃しようと、切られたらそこで終了。相手の遠距離攻撃もないのだが、近づかれれば関係ない。相手の間合いに入れば一撃必殺の剣撃で人生が終了してしまう。


 そこで俺は考えた。考えに考えに考えた。

 あの魔剣に対してどう対処したらいいのか。どうすれば勝てるのか。考えに考えに考え抜いた。



 ……その結果。結果的には思いついた。



 思いついたのだが……



(……どうやってやるんだこれ)



 大阪にいた頃の俺は、手元にあるスキルの反射と闘力操作では、思いついた対抗策を実行できない事実に直面し、それ以上の思考を放棄し、これは使わないだろうとこの対抗策をボツにしていたのだ。



 ……だが。



 だがしかし!!



 今は違う! スキルが体の変化とともに違うものとなり、偶然か必然か、ボツ対抗策を実行できるスキルとなったのだ!!


(今ならやれる!!)


 俺は残りの瓦礫を全て騎道優斗に向かわせた後、瓦礫に続くように、俺自身も騎道優斗に向かって突っ込んでいく。


 これをやることにより、瓦礫が斬られたとしても、聞かれたときに発生する砂埃で視界を奪い、相手の不意をついた一撃が可能になる。


(……が、そう簡単にはいかないか)


 しかし、これはつい先ほども行った手。砂埃の中から攻撃してくることなど、騎道優斗も想定済みに違いない。

 その証拠として、俺が砂埃の中から出てきた瞬間に、目線をこちらに合わせてきた。


「っラァ!!」


 そして騎道優斗は俺が放った拳を魔剣で防ぎ、片方の腕でパンチ。俺の不意打ちに合わせてカウンターを俺の顔に叩き込んできた。


 俺の不意打ちに合わせてのカウンター。流れるようにそれを決めた騎道優斗の脳内は今頃、してやったりと喜んでいることだろう。



 ……が。



(想定通りだ……対応されるのも!!)



 こんなもの想定されて当たり前だ。このレベルの相手に対して、同じ行動を2度する事は、相手にさぁどうぞ攻撃してくださいと言っているのと同義。不意打ちが不意打ちとなり得ないのだ。


 しかし、その中に絡め手が用意されていた場合、その不意打ちは一気に有効な一手になる。


 その有効な一手を決めるため、俺はあえて見透かされている行動をとったのだ。


「……ッち」


(こいつ……)


 顔に感じる強い衝撃、あとから遅れてやってくる鋭い痛み。今まで受けてきた拳の中でも、上位に入る。


 本気で思いっきりぶん殴ってきやがった。殴り返してやりたい気持ちが湧き上がるが、ここはぐっとこらえ、衝撃に逆らわず思いっきり後ろにのけぞる。相手に隙を見せ、目当ての魔剣を持っている方の腕をあらわにしてもらう為だ。



 そして、俺の隙だらけの体を真っ二つにしようと、魔剣を高く上にあげた……



(今だ!!)



 瞬間、俺は用意していた物体をこちらに近づける。


 先ほど、すべての瓦礫を騎道優斗に向かわせたと言ったが、どういうルートを通ったかは一言も言ってはいない。


 つまりはたったの1個。たったの1個だけ、超遠回りで騎道優斗に向かわせていたのだ。


 しかし、いくら遠回りさせて攻撃しようと、攻撃が当たるとは限らない。俺が騎道雄馬の後ろからの攻撃を弾いた時のように、簡単に見切られる可能性がある。というかそっちの可能性の方が高いだろう。


 しかし、だが、そこで、もう勝利一歩手前の状態だった場合、話は変わってくる。


 視界に入る世界しか見えなくなる。この生き死にの戦いから早く自分を解放しようと躍起になってしまうのだ。


 そこまでいけばもう止まらない。魔剣を手に持ち、目の前の敵を真っ二つにしようと脳が命令すれば、体はもうその行動しか取れなくなる。



 つまり必中、必ず当たるのだ。



(俺の遠回りさせた……ガラスの破片がなぁ!!)



 瓦礫は俺を接近させるための囮。


 そして俺自身も、ガラスの破片で腕を手首から斬り裂く為の囮。


 この二重の囮によって綿密に作られたたったひとつのガラスの破片は、魔剣を手首ごと斬り落とし……



「あばよ」



 遅れて俺の放った拳は、騎道優斗の腹を貫通した。

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