楽しい楽しいお祭りの続き 体力勝負。しかしスピード勝負

「だああっ!!」


「っらああ!!」


 お互いに示し合わせたかのように、剣と拳の交錯が始まる。

 違うのはお互いの勝利条件。俺は拳を何発も当てないと勝利できないのに対し、騎道優斗の剣は一発でもまともに当てれば完全勝利。

 とてつもないほどの不平等。スキルの相性と言う不平等をいやと言うほど感じていた。


「ふんっ!!」


「……っ!」


 騎道優斗が放った魔剣での一振り。その一振りは、俺の顔の真横を掠め……


「……ちっ」


 俺の耳を、鮮やかな切り口で奪い取っていった。


「耳だけか……だが、すぐにその頭を切り裂いてやるよ!」


「……そんなことにはならねえよ」


 口ではそんなことを言ったが、内心では俺も焦りに焦っていた。

 正直、今の一振りは見えなかった。偶然生まれた回避と言って良いだろう。

 ここからわかるのは、もう俺の体力はそこまで残されていない。かなりの疲れがあるのがうかがえる。


 さらに、俺には時間制限もあるため、早期に勝負を決めなくてはならない。


 騎道優斗がこの場に乱入してから、もう10分以上は経っている。もういつ残りの3人が乱入してもおかしくない状況になった。


(決めないと……早く!!)


 俺は焦りながらも、スキルを使用し、残り全ての瓦礫に対してこちらに来いと命令を出す。

 もちろん、俺の頭の中にあるとある策を実行するためだ。


 騎道優斗や騎道雄馬対策に、前々から考えていた1つの策。今こそ使うときだ。


 俺は騎道優斗に瓦礫を向かわせるため、さっきまで急接近していた体を急激に後ろに下がらせる。


「なっ……!?」


 急に後ろに引いた俺に騎道優斗も驚いたのか、顔を見たことないほど歪ませていた。

 その顔がとてもおかしく、俺も口角を上に上げてしまった。


 しかし、今はそんなおかしな表情にうつつを抜かしている場合ではない。できることならば今すぐにでも決着をつけなくてはならないのだ。


「プレゼントだ!!」


 俺は人差し指を騎道優斗の方向に曲げ、瓦礫を大量に騎道優斗に対して発射する。


 だが――


「まだわかんねぇのか……無駄だってことに!!」


 騎道優斗は自分の魔剣、ディルヴィングを使い、向かっていく瓦礫を次々切り裂く。固いはずの瓦礫が、まるで紙切れのようだ。


 だが、俺がそんなことを想定していないわけがない。それくらい承知の上だ。


(瓦礫をさばいている……その隙を突く!!)









 ――――









(見えているぜ……その魂胆!)


 俺、軌道優斗は降り注ぐ瓦礫を粉々にしながら、心の中で黒ジャケットの考えを見抜いていた。

 黒ジャケットの考えている事は、おそらくは隙をついた俺への不意打ち。それ以外にはありえない。


 さっきから目くらましからの攻撃やらなんやらと、同じような事しかしてこないので、つまらないと感じてしまう。


 ……が、不意打ちは最強の攻撃手段だ。そのことを忘れてはいけない。


 少しでも気を抜けば一瞬で致命傷を受ける。あの3人がまだ到着していない以上、俺がやられてしまえば兄もろとも死亡は確実。今は気を抜いてはいけない。


 ……しかし、逆に考えれば、気を抜かなければ確実に防ぐことができる攻撃でもある。


(問題ない!! 不意打ちを完璧に意識したこの状態なら!!)


 そうやって、降り注ぐ瓦礫を切り捨てていくと……



(……!!)



 切り刻んだ瓦礫による砂埃の中に、ゆらり、ゆらりと何かの影が近づいてくる。

 ゆらりゆらりと言う表現を使ったが、決して遅いわけではない。東京……いや、世界でも有数のハイパーランクと言う超有能スキルを持った俺からしても、十二分に素早い。一般兵士なら対応できないほどの速度だ。


 だが、俺はハイパーランクスキル保持者の超エリート。俺なら……俺だから、余裕を持って対処できる。


 そして、その影は砂埃をかき分け、ついにその姿があらわになる。



(……やはり来た!!)



 その姿は予想していた通り、黒いジャケットをたなびかせ、顔をフードで隠した男。


 黒ジャケットだった。


 黒ジャケットはまだ残っている右腕を大きく振り上げ、俺に対して一撃を狙っている。


 しかし、そんな見え見えの攻撃をはい分かりましたともらう俺ではない。


 こちらに向かってきた右拳を、魔剣の刀身の根本の部分できっちりガードし……


「っラァ!!」


 魔剣を持っていないもう一つの手で、黒ジャケットの顔面を思いっきりぶん殴った。

 もちろん俺の拳を食らって、黒ジャケットは大きくのけぞる。これが魔剣で攻撃できていたら勝負は決まっていた。


(……が、このタイミングでぶった斬れば問題ないだろ!!)


 黒ジャケットは俺の拳をもらい、大きくのけぞっている。今が絶好のタイミング。ここで斬らずしていつ斬ると言うのか。


「くらえ!!」


 俺は隙だらけの黒ジャケットに対し、大きく魔剣を……



(……ん?)



 なんだか魔剣を持っている方の腕が妙に軽い。まるで魔剣がなくなったかのような軽さだ。


 それが妙に気になり、魔剣を持っている方の腕をチラリと確認すると……







「…………はぁ?」







 魔剣が…………







 腕ごと、なくなっていた。







「あばよ」

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