楽しい楽しいお祭りの続き 兄から弟へ

「がああああああ!!!!」


「……っと! 危ねぇ!! めちゃくちゃに瓦礫を飛ばしやがって……」


 俺は周りの建物などを気にせず、ただひたすらに騎道優斗を仕留めるために、半ば雑に瓦礫を飛ばす。


 正直、自分でも理解ができるほど俺は焦っていた。どれくらい焦っているかと言えば、牛にやられかけた時並みに焦っていた。

 もちろん、騎道雄馬が助けを呼ぶことを想定しなかったわけではない。だが、俺と戦っている以上、そこまでこと細かく場所や状況をメールに書き込める時間はない。簡素なメールぐらいしか送れないはずだ。電話など論外だろう。


 ゆえにいくらメールや助けを求める手段を使用したとしても、伝達してから助けに来るまで、しばらく時間がかかると考えたのだ。

 なので短期決戦で迅速に仕留めれば、騎道雄馬単体だけを確実に潰すことができる……と、思ったのだが。


(計算が違った!! 仲間が来るスピードがあまりにも早すぎる!!)


 東一時代から見れば明らかに強くなった俺だが、さすがにハイパー2人を相手と言うのは分が悪い。

 左腕を吹っ飛ばされると言うダメージを負ったのならなおのこと、今ハイパーを相手にしてはいけない。


(退却したい……が)


 ここで退却しまうという事は、騎道雄馬を逃してしまうと言うことだ。それをしてしまえば、ハカセのことを探られる。

 つまり、これからの俺の藤崎剣斗としての行動はかなり制限されると言う事。どうにかして騎道雄馬だけは始末したい。

 騎道雄馬の死。それさえできれば、勝利できなくとも敗北する事は無い。

 幸いなことに、騎道雄馬は見るも無残に倒れている。大きな瓦礫分つぶしてやれば一瞬だ。


(騎道雄馬だけでもっ……!?)


「――――近づいたぜ!!」


 騎道雄馬に対して瓦礫をぶつけようとした瞬間、騎道優斗がすぐそばまで近づき、魔剣で攻撃してくる。すんでのところで回避はできたが、頰に切り傷が入ってしまった。


「チィ! ヒットせずか……」


(お前のがヒットしたら死ぬっての……)


 騎道雄馬に比べて、明らかに早く接近されてしまった。

 その理由はもちろん、スキルの相性にある。


 騎道優斗のティルヴィングは村雨と比べても、圧倒的な切れ味を誇る。俺の覚えている限りでは、たやすく切れなかったものは存在しない。

 そんな魔剣がそこら辺のコンクリートを切れないわけがない。俺の瓦礫による妨害など、ティルヴィングにかかれば紙吹雪と大差ないだろう。


 そして、騎道優斗が到着していると言う事は……


(おそらく……残りの3人も……)


 到着する可能性が高い。それだけはなんとしても阻止しなければ。


「がああああああ!!!!」


「ふうぅぅ……」


 俺は騎道優斗と激しい空中戦を繰り広げる。魔剣で攻撃してきたら回避してレバーブロー。右から左へ魔剣を振り抜いてきたら回避してジャブ。

 無論、騎道優斗も防御しないわけがなく、開いた片方の手で攻撃をさばいてくる。


 場所を変え位置を変え、息つく暇ない攻防戦。


 しかし、そもそものコンディションが違いすぎる。腕が1本ないので手数も少ない。押され気味なのは必然だった。


「……っ! ぐうう……」


 いつもの俺ならば、戦いの中で相手の弱点を見つけ、そこを突くところだが……奴の魔剣は当たれば終了。一撃必殺の魔剣だ。なおかつこのコンディション。回避することに全神経を注がなければ、すぐに負けてしまうだろう。


(チッ……出血のせいか……意識も……)


 視界がゆっくりとぼやけてきた。左腕の出血が思った以上のようだ。


(早く離脱しないと……マジに死んじまう!!)


 左腕がない中で、騎道優斗の攻撃をしのぎ切り、騎道雄馬を殺害しつつ、後から来るであろう残り3人に追いつかれないように逃げ切る。


(これを達成するには……)


 俺は急激にギアを上げ、瓦礫を一気に騎道優斗へ集中させる。


(とにかく早く!! 迅速に決めるしかない!!)


 結局、俺にできるのはできるだけ早く勝負を決めること。結局はそうするしかない。


「なっ……! 急に……!!」


 騎道優斗も急な攻撃のラッシュを受け、面食らっている様子だ。


「だがな……俺にとっちゃあ敵じゃねえんだよ!!」


 騎道優斗は魔剣を振り回し、俺が飛ばした瓦礫を一瞬で粉微塵にする。しかし本命は瓦礫ではない。



「何……?」



 瓦礫の中に紛れた……俺だ。



 瓦礫の中に紛れた俺の右ストレート。それはがら空きの騎道優斗の顔面に直撃する――――



 ――――と、思われたが……



「舐めるなァ!!」



(何……!?)



 驚愕、驚嘆。そんな言葉しか出てこない光景。


 なんと、騎道優斗は拳が直撃する直前、頭をグリンと回し、頭で拳を受け流してきたのだ。

 もちろんすべての衝撃を受け流せるわけではない。だが、気絶と言う最悪の結果だけは回避できる。


 その後、俺たちは飛び跳ねるようにお互いに離れ、距離を取る。


(どうする……瓦礫も体術も効かないとなると……)


 こんな時、俺の反射と闘力操作があれば……と何度も思ってしまう。

 しかし、ないものはない。それをねだるのは子供と一緒だ。今ある手札で戦わなくてはならないのだ。


 ここからどうやって攻めるか。それを考えて――



「……おい!」



「ん?」



 ――考えていると、急に騎道優斗がこちらに喋りかけてくる。条件反射で言葉を返してしまったが、時間稼ぎかもしれない。


 俺はそう考え、無視しようと頭から騎道優斗の言葉を放棄しようとした時――



「お前……藤崎剣斗か?」



 信じられない言葉が、耳に入った。

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