楽しい楽しいお祭りの続き 繋ぎの3

 抜刀術。刀を扱う技の中で、一番有名と言えるだろう技だ。

 鞘に刀を帯刀した状態から一気に刀を引き抜く技術である。


 ……しかし、スキルと言う超常現象がはびこる今日この頃。抜刀術なんて使ったところで、相手に発生するダメージなどたかが知れている。

 ならば、もともと自分が持っているスキルで攻撃すればいいだけの事。


 そして、それはすべての剣技に言えることだ。


 故に、剣を使うスキルを持っている人間だったとしても、剣を振り回すだけで、わざわざ真面目に剣技を使用する者はかなり少ない。


 それでも勝ててしまうから、それでも強くなってしまうから。


 ――だが。



(強くなれないわけではない)



 剣を使うための剣技なのだ。強くなれる量と言うのは微々たるものだが、強くなれるのは確か。強くなれる1つの手段として、俺が利用しない手はなかった。


 ……そんな中、俺は気づいたのだ。



(剣技は過小評価されすぎている!! 剣を使う上で、特に剣を使うスキルを持つ者ならば必須の技術だ!!)



 もちろん先に言った通り、剣技だけなら目を見張るほどの成長はない。

 しかし、しかしだ。組み合わせるとどうだろう。


 俺が持っているスキルと、脈々と現代まで受け継がれてきた剣技。この2つを組み合わせるのだ。


 ただスキルを使いながら剣技を使うのではない。もっと密着させて、もっと粘着させて、もっと絡み付かせなければならない。


 そして、俺がたどり着いたスキルと剣技の合体技。



 それこそが――――



(この抜刀術だ!!)



 発射。類まれなる努力により磨き上げられた鞘からの抜刀に加え、鞘の中から水で刀身を押し上げるように発射する。


 その姿はまるでロケット。凄まじい水圧で腕ごと放たれた刀身は、持っている俺ですら目で追えない。


 発射。鍛え抜いた体の背中と足の裏から凄まじい水圧で放たれた水は俺を凄まじい勢いで黒ジャケットの下へ向かわせる。



 抜刀術プラス剣技。これが俺の答え。究極の一振り。



 目にも止まらぬ勢いで黒ジャケットの下へ近づき――



 斬った。









 ――――









 ――――突然のことだった。


 突然、俺の視界から騎道雄馬が消えた。


 いや、正確には――――見えていないように見えた。と言った方が正しいだろうか。


 目の前から突然人物か消える現象。俺はそれを何回も体験していた。ヤクザの本拠地で遭遇した虎がいい例だ。


 そして、そうやって消えた者はいつも俺の体を痛めつける。


 ……高校2年生。そんな若い人間からは想像できないような壮絶な経験。それが勝手に俺の体を動かした。


 その結果…………



「こうなる……か」



 俺の左腕はなくなった。









 ――――









 気がつくとなくなっていた左腕。しかし痛みは感じず、斬られたような感覚も感じなかった。


 だが、斬られた断片から溢れ出る血が、俺に斬られたんだと実感させる。


「ぐあぁぁあっ……!!」


(……ん?)


 後ろから聞こえるうめき声。振り向くとそこにいたのは、やはりというかなんというか、騎道雄馬その人だった。


 そして、その体には変化が1つ。


(腕が……なるほど。耐えられなかったのか)


 村雨を握ったであろう腕。その腕がなんと、見るも無惨に潰れていたのだ。

 おそらく、俺の目にも追えない速度で攻撃したのだろう。その速度に耐えられず、腕が潰れてしまったと言うわけだ。


 腕一本を引き換えに、俺に与えた確かなダメージ。


「……愚かな」


 いくら相手にダメージを与えようと、自分が大丈夫でなければ意味がない。ダメージを与えると言うのは目標ではなく、通過点なのだ。


 新の目標。到達点と言うのは勝利すること。勝利しなくては相手にいくらダメージを与えようと意味がない。たくさん勉強したからといって、テストで良い点を取らなくては意味がない。それと同じなのだ。


 騎道雄馬は間違えた。自分が行うことの意味、理由を履き違えた。



「……終わりだ」



 騎道雄馬を行動不能にするため、瓦礫を数個、騎道雄馬に向かわせる。



(まずは足をつぶして――)



「……確かに」



(……んあ?)



 落下していく騎道雄馬。だが、生意気にもその口は饒舌に動いていた。



「俺は確かに到達点を間違えた……勝利への道を間違えた……」



(聞いても意味はないな……黙らせるか)



 俺はその口を黙らせるため、向かわせている瓦礫の速度を少し上げる。



「しかし、しかしだ……!!」



(……ん?)



「なら俺は……引き継げばいい」



「数人がかりで到達できればそれでいい!!」



「そのための――――」



 瞬間、騎道雄馬に向かわせていた瓦礫が――――



 粉々に砕けた。



「何!?」



 割れたような断面ではない。どちらかと言うと斬られたような、そんな美しい断面だ。



「おい!! 大丈夫か!?」



 声が聞こえた方に目を向けると――――



「兄弟だ」



 騎道雄馬の弟、騎道優斗がそこにいた。


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