楽しい楽しいお祭りの続き この時

「…………」


 俺は今、待合室を離れ、体育館を出たすぐ近くの人気のない場所に来ていた。

 もちろん、何の意味もなく人気のない場所に来たわけではない。しっかりとこの後に始めることの準備のために来ている。


「……今なら誰もいないな」


 俺は周りを入念にチェックし、人気がないことを確認すると、すぐ近くの木まで移動し、エリアマインドを発動する。


 上の方でガサガサと何かが動く音が聞こえ、上から俺のお目当てのものが手元へたどり着いた。


「やっぱ、これがないとな……!!」









 ――――









 一方その頃……


 俺、騎道雄馬は既に校舎から外へ出ており、体育館へと歩を進めていた。

 藤崎剣斗の髪の毛に見えた銀の球体。それは嫌に見覚えがあり、良い思い出でないのは確かなことだった。


(それに加え、前までの藤崎剣斗からは信じられない行動……)


 何かがある。それは間違いなかった。


 そもそも、今回の体育祭はいろいろ不審な点があった。


 急な桃鈴様の体育祭出場に性格の変貌、さらには規模の急な巨大化など、今回に限って変わったことが多すぎる。


 さらに極めつけは…………


(教員たちの失踪……)


 実は昨日の夜、とある3人の教員たちが失踪するという事件が起きた。

 まだ真相は明らかになっていないが、体育祭の前日の夜にいきなり失踪すると言うのは不自然。

 心配しすぎと思うかもしれないが、ここ最近は不自然なことが多すぎる。過度に心配する位の方がちょうどいい。


「そのために急がねば……!」


 そのまま歩を進め、もうすぐ体育館が見えるかと言うところ。

 体育館の屋根が見え、自然に体を動かすスピードが速くなってきたところで…………



「……ッ!!」



 俺を中心に、地面に大きな影が出現する。

 何か異常が起きているのは確定だ。



「村雨!!!!」



 回避するのは難しい。地面に影を作るこの物体が、どれくらいのスピードで落下してくるのかもわからない以上、無駄にリスクを負って回避するのは愚行。


 ここは騎士らしく…………



「…………斬る!!」



 俺は瞬時に腰に手を回し、村雨を抜刀する。


 抜刀する瞬間に露が発生し、俺の腕を濡らす。この感覚も慣れると心地が良いものだ。


 当たり前のように、村雨はいともたやすく落下物を切り裂く。さすがに優斗のティルヴィングのように、切った感覚さえないほどいともたやすくとはいかないが、そこさすがの魔剣、すばらしい切れ味だ。


(……コンクリートが落下してきた。あきらかに人の手の犯行だな)


 切った後の残骸から、上から降ってきたものはコンクリートだと断定することができた。おそらく、敵も上にいる。


(戦闘になるのは確定……か)


 正直なところ、戦闘したくはない。せっかくの体育祭と文化祭なのだ。こんなところで戦闘を起こしてしまえば、中止は確定だろう。


(しかし……)


 だからといってここで取り逃がせば、この先犯人よって苦しめられる人々が増えてしまう。


(……これも騎士の務め……か)


 生徒とは言え、少し前に任務も経験した。俺も立派な兵士……いや、騎士の1人と言っていいだろう。


(やってやろうじゃないか……!!)


 任務をこなしたことがあるとは言え、実践的な戦闘はこれが初。

 だが、そんなものは理由にならない。人間たるもの、騎士たるもの、戦わなければいけない時は必ず来る。今がその時なだけだ。


(行くぞ…………!!)

 




 決意を胸に、顔を上に上げると……





「……チッ、切り抜けたか」





 黒いジャケットに身を包み、フードで顔を隠した男が……





 そこにいた。



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