楽しい楽しいお祭りの続き 震えと洞察
体が震える。指が段々と冷たくなる。体操服の間から入ってくる風を妙に感じる。感覚がとてつもないほど鋭くなる。
まるで体がどんどん強くなっていくかのようだ。
もちろん強さと言うのはこれから生まれる結果の過程に過ぎない。そしてその結果と言うのは俺にもわからないし、神のみぞ知ると言ったところだろう。
……しかし、俺にとって、その結果は最重要のものの1つだ。
(捻じ曲げてやる……)
……たとえ、神が俺の敵だとしても。
――――
時は少し前、最初の競技が終わった後に遡る……
「おおおお!! さすがは桃鈴様だ! あんな雑魚どもなんて1捻りだぜ!!」
「おい。周りに人がいるんだぞ。少しは静かにしろ」
ここは文化祭の中にある部屋の1つ。そこでは大きなテレビが設置しており、それを囲むように席が設けられている。
「……やっぱり、私たちがいるのは邪魔じゃない?」
「そんなに気にすんなって語部! 周りが勝手にやってることなんだからよ!!」
「……同意したくはないが、俺たちは正式な手順を踏んでこの場に立っている。優斗の言う通り、気にすることはないだろう」
「そう? ならいいけど」
そんな会話をしているのはこの俺、騎道雄馬と騎道優斗、語部友燐だ。
3人だけかと思うかもしれないが、宗太郎は先ほどジャンケンに負け、飲み物を買いに行っている。
「だが……なぜ桃鈴様はこんな催し物に出場しなさったのだろうか……」
「さあな? でもリフレッシュの為なんじゃないか? 最近何か悩んでいる様子だったし」
優斗はあっけらかんとそう答える。
優斗的には適当に返しただけなんだろうが、意外に的を得ているのかもしれない。
(桃鈴様……俺に相談していただければいいのに……)
自分はそこまで頼りないのだろうか。そんな思いを胸に秘めながら、目の前のテレビ画面をじっと見つめる。
(……やはり、神奈川の時のことがまだ尾を引いているのか)
それ以前も兆候はあったが、あの黒ジャケット乱入事件。あそこから確実に桃鈴様は変わり始めた。
同じ桃鈴様とは思えないほどの性格の変貌。あそこまで明るかった桃鈴様があそこまで冷静に……いや、強さに執着し始めたのには目を疑った。
それ以前までの桃鈴才華を知っている人間からしたら、直のことである。
そのことについて考えていると、廊下の方からドタバタと、急いで走っているかのような音が聞こえた。
「はーっ、はーっ……競技は!?」
「大丈夫、まだ最初の競技が終わった後だよ」
その足音の正体はやはり宗太郎。腕に大量のペットボトルを装着しているその様子を見ると、自動販売機か何かで飲み物を調達してきたようだ。
「飲み物はとってきたんだろうな?」
「もちろんだよ。忘れるわけないだろ」
宗太郎はそう言いながら、腕に装着したペットボトルを余っている椅子に置いていく。その種類はソーダからレモンティーまで様々だ。
「ずいぶんたくさん買ってきたな」
「何が好きか聞くの忘れちゃったからさ、わからなかったんだよ」
「そんなことより2人とも! 次の競技が始まるぜ?」
そんなどうでもいい会話をしているうちに、テレビでは競技の準備が整い、次の競技が始まろうとしていた。
もちろん俺もテレビに向き直り、競技の様子をじっと見つめる。
(ほう……竹取り合戦か)
単純だが、戦況を見極める洞察眼も必要となるこの競技。そこにスキルと言うスパイスが加わることで、より周りを客観的に見ることが必要になってくる。
「こんなの肉体強化のスキルで無理矢理引っ張れば簡単じゃないか?」
優斗がつまらなそうな目でそうつぶやく。
「そんなわけないでしょ。ただごり押しで引っ張ってるだけじゃ、その間に周りの竹をとられてしまうわ。より効率的に、いかに相手の手薄な部分を狙えるかが試される」
急に友燐が喋りだす。優斗の観察眼のなさに嫌気がさしたのだろうか、不自然に感じるほどの饒舌さだ。
いつも桃鈴様に対しての敬語しか聞いてない分、ラフに話している友燐はかなり新鮮に感じる。
「お……おお……そっか、そうだな、うん」
優斗も友燐の急な饒舌に驚いたのか、かなり驚いた様子だ。
いつも物静かな分、その驚き度も倍に違いない。
(おっと……観戦観戦……)
そう思い、意識をテレビ画面に写すと……
『決着ーーーーッ!!!!』
試合はもう終了していた。
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