楽しい楽しいお祭りの続き 溢れるもの

 ついに体育祭が始まった。体育祭といっても、一般的な体育祭と違い、体育館の中と言う室内で行われている。写真で見たことしかないが、数十年前に開催されていた東京オリンピックのようだ。


 気になるその内容だが、体育祭の種目自体はどこにでもある体育祭と何ら変わらない。ちょっと注目度が上がっただけだ。

 そのため、高ランクスキル保持者が率先して体育祭に参加する事はほとんどない。

 体育祭に参加しても内申点が上がるわけではないし、こんなので怪我をしてしまってはその人物の兵士人生に関わる。


 故に、桃鈴才華と藤崎剣斗が参加と聞いたとき、あそこまで盛り上がったと言うわけだ。


『では、校長先生から挨拶です』


 俺たちは体育館の真ん中で整列し、皆の前に立つ校長先生の話を聞く素振りをする。こんなのは話が長すぎて聞いていられない。こんなの聞くんだったら不協和音を聞いていた方がましだ。


「…………」


 俺は特にやることもなく、じーっと何もない目の前を見つめる。何もやることがないからだ。


 普通、こういう時はキョロキョロとあたりを見渡したりしてしまうものだと思うが、俺はわざとそんなことはせず、じっと目の前を見つめる。



(だって……それでもし、視界に入ったりしてしまえば……)



 何をするかわからない。



 なので、体育館の外で待っていた時も、あえてそちら側に目を向けずにしていた。


 正直、今復讐が果たせるなら本望ではあるが、俺は強欲なのだ。ぶっ殺した後にしっかり自分は生きていたい。


 欲を言うなら、殺した後も原型をとどめないほど叩いて悪趣味な死体にしてやりたい。


 そんなこんなしているうちに、校長先生の長ったらしい挨拶は終わり、種目が始まろうとしていた。









 ――――









 校長先生の挨拶が終わった後、俺たち選手一同は、待合室に辿り着き、思い思いの時間を過ごしていた。

 なぜ全員同じ部屋で待機しているのかというと、この体育祭にはチーム分けは存在しないからだ。完全に観客たちを楽しませるための出し物として扱われている。

 そんな対戦性の低さも高ランクスキル保持者がなかなか参加しない理由の1つにもなっている。


 さて、そんな待機所の様子だが、単純にスマホをいじったり、友達らしき人物と談笑したり……待機時間の使い方は様々だ。



 ……しかし、その大半は、ある人物へとまるで虫のように群がっていた。



「桃鈴さん! サインお願いします!!」



「どうやったらそんなに強くなれるんですか!?」



「握手してください……グヘッ……グヘヘ!!」



「結婚してください!!」



「あ〜……あはは〜……あんまり押さないでね……?」



(うわぁ……)


 その虫たちは純粋な心を持っている者や変態的な思考回路を持つ者まで多種多様。あの空間だけで多様性が表現できるほどだ。

 俺の肉体である藤崎剣斗も相当な知名度を持っているようだが、さすがにあの桃鈴才華には遠く及ばないらしく、こちらには1人も来ていない。まぁ楽なので俺的にはオッケーだが。


(そんなことよりも……今は今日の予定を決めないと……)


 昨日の夜、俺はミスを犯し、4人のうちの3人までしか接触することができなかった。なので残り1人の教員に接触する事は絶対。

 それ以外にも何かアクションを起たいところだが……


 そこまで考えた瞬間、俺の体がピクリと反応する、そんな会話が耳に入った。


「そういえば……桃鈴さんは何故体育祭に?」


 確かに、桃鈴才華といえば、名だたる有名な制度の中でもトップクラスの知名度を誇る。そんな奴が出場しても大してプラスにならない体育祭に出場する理由はない。


「あ……えっとね……」


 そう言った後、桃鈴才華の声が聞こえなくなる。

 俺はそちらに視線を向けていないので、どんな仕草をしているのかわからないが、すぐに理由を離さないあたり、どうやら悩んでいるらしい。


「……やらなきゃ、って思ったからかな」


「やらなきゃ?」


「うん……僕がやらなきゃって」


(やらなきゃ……ねぇ?)





 じゃあ……





(俺がみんなの前で殴られていたときは…………そう思ってくれなかったのか?)





 俺の心の奥底から、





 ボコボコと溢れるものを感じた。



 

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