楽しい楽しいお祭りの続き 体育祭開催

 しばらくの間、女生徒についていく行動を続けていたが、とある教室で女生徒の足はピタリと止まった。


「……更衣室?」


「そ! 今日は体育祭でしょ? もう出場選手は中にいるから、剣斗くんも着替えてきて! ……あっ、今私の目の前で着替えたいんだったら別に……」


「いや入って着替えます」


 女生徒の変態性が垣間見えたところで、俺はそれを言い切られる前に返答する。少し背筋がぞっとした。


 頭をブンブンと振って、先程の考えを頭の隅に置き、目の前の物事について考える。


(体操服か……)


 何ヶ月も学校に来なかったからか、体操服と言う存在をすっかり忘れていた。


(そうか、そうだよな。体育祭やるんだったら体操服着るよな)


 俺は頭の中で納得しつつ、今もどこか上の空な女生徒に感謝を伝え、更衣室の中に入っていく。



 気になる更衣室の中はというと……



 まず目に入るものは筋肉。女性らしさのじょの字もないほどに筋肉。ゴリマッチョもいれば細マッチョもいる。とにかく自分の強さに自信がありそうな奴らが集まっていた。

 クラスで見たことのない人間もいるところを見ると、全学校の全生徒が利用していることがうかがえる。


(着替え着替え……っと)


 俺は手ごろなロッカーを見つけると、そのロッカーの前で服を脱ぎ始める。


(……やっぱ注目されるな)


 脱いでいる俺に対しての明確な視線を感じる。十中八九この更衣室にいる奴らの視線だろう。

 今の俺の体は藤崎剣斗。ハイパーのスキルを持った人間だ。そんな人間に注目しないはずがない。


(あんまり注目されたくはないんだけど……こればかりは仕方ないか)


 注目されることに対して仕方ないと考えつつ、上半身の服を脱ぎ終えた俺は、体操服着替えようと、体操服に手を伸ばす。



 体操服に…………



 …………あ。



 その時、俺は衝撃の事実に気がついた。





「体操服ねーじゃん…………」









 ――――









 体操服がないと言う驚愕の事実に気づいてしばらく。その圧倒的すぎる事実に絶望を隠せないまま、その場で呆然としていると……そこに救世主……いや……女神が現れた。


(助かった……妹が体操服を持ってきておいてくれて……)


 素晴らしい。やはり兄妹を持つと言うのは素晴らしいことだ。昔に戻れるのなら、ぜひとも妹を譲っていただきたい。


(なんて素晴らしいんだ……やはり持つべきものは妹だな……)


 そんな俺がいる場所は、文化祭がある東一から少し離れたところにある超巨大な体育館。急だなと思うかもしれないが、始まってしまったんだからしょうがない。もうすぐ始まるのだ。

 俺の東一時代の記憶が正しければ、客席もまるで野球のスタジアムのような形で作られており、これから試合が始まるのかと思うほどだ。


 そして俺は、そんな体育館で開催される体育祭……その目玉、出場選手と言うわけだ。





『それでは!!!! 選手の入場です!!』





 大音量でスピーカーから発せられる司会の声。あまりにも大きすぎたせいで、体がビクッっと震えてしまう。


(この音量苦手なんだよな……)


 そしてついに……俺たち選手は体育館の中へ入場する。





「「「「ワアアアアアアアアアアアアア!!!!」」」」





「うお……!!」


 体育館の中に入った瞬間、スピーカーから発せられた司会の声よりも大きい歓声が耳を貫く。

 体育館の中は、俺の記憶通り、スタジアムのような形で、客席は満席も満席。ギッチギチのギチだ。


 これから体育祭が始まるんだぞと、いやでも認識させられる。


『しかも今回!! あの藤崎剣斗と……デュアルハイパー桃鈴才華が参戦しております!!』


「「「「おおおおおおおおおおぉぉ!!!!」」」」


 名だたる有名生徒の参加に一気に湧く観客達。


 それもそうだ。藤崎剣斗の知名度はよくわからないが、桃鈴才華と言えば、他派閥にも名をとどろかせる超有名人。湧かない方が嘘と言うもの。





 そして俺も…… 憎きあの名前に、グッと拳を握りしめる。


「…………ッ!!」


(待て……今はその時じゃない……落ち着け……落ち着け……)


 俺は自分に言い聞かせて、溢れ出そうになる殺意をぐっと奥に押し込める。









 ……きたるべき時に、より多くの殺意を出せるように。

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