楽しい楽しいお祭りの続き

「ふわぁ……眠い……」


 スマホの耳障りなアラームとともに、俺はむくりとベッドから起き上がる。スマホで時間を確認すると、時刻は6時半。ちゃんと予定の時間に起きることができたようだが、ここまで不愉快な目覚めは久しぶりだ。


「ちぇ……あと3時間は寝たいのに……」


 しかし、昨日はそうやって遅刻してしまったのだ。どんなに辛くとも、反省点は改善しなくてはならない。これはトレーニングと一緒だ。

 俺はそう自分に言い聞かせ、横になりたがる体を無理矢理縦にする。

 寝起き特有のめまいのようなものが発生するが、俺はそれに構うことなく、リビングを目指して歩き出した。


 リビングにたどり着くと、そこには家事を進める母親と、トーストにパクつく妹の姿があった。


「あら、今日は早起きなのね?」


「驚き〜! 昨日あんなに遅刻したのに!」


 どうやら2人は早起きすると思っていなかったらしく、リビングに俺が入ってくると、目を丸くして驚いていた。


「遅刻したから早起きしたんだよ……」


 それに今回は文化祭だけではない。


「まぁ……今日は体育祭だから、早起きしてきてよかったわ」


 そう、体育祭。今回は文化祭だけでなく、体育祭も絡んできているのだ。

 そして俺はその出場選手。これでもし、また遅刻しましたなんてことになったら、処分を下されるかもしれない。

 そうなってしまうと、せっかくの犯人に近づくチャンスを棒に振ってしまう。このチャンスを棒に振ってしまえば、次はいつ犯人に近づけるかわからない。


 そういうわけで、俺はこの三日間の間だけは、教員側に処分を下されるような行いをするわけにはいかないのだ。


「……何ぼーっとしてるの? ほら、お兄ちゃんも早く食べて」


 処分を下されることによるデメリットについてを考えていると、ぼーっとしていると思われたらしく、妹は俺に話しかけ、トーストを食べるように催促してくる。


「ん? ……ああ、すぐ食べる」


 俺はそれに答え、すぐに自分の席に座り込み、トーストにかぶりつく。トーストは、外はパリッと中はふわっとで、これ以上ない理想的なトーストのように思える。きっと食パン自体もかなり高級なものを使っているのだろう。


(けど……なんかなぁ……)


 朝食はご飯派の俺にとっては、何か少し物足りない。そこまで食べ物にはこだわらないタイプなのだが……


(あれを食べちゃうとな……)


 俺の頭に思い浮かぶのは、大阪に居たときのあの朝食。白米にだし巻き卵に味噌汁、洋食の時はトーストにプラスアルファで様々なものがついてきた。


 正真正銘、あの袖女の朝食だ。


 しかも袖女の場合は朝食だけではない。昼食も夕食も、普通の主婦では作れないようなおいしさや工夫を持つ料理がほとんどだった。


 もちろん、このトーストが美味しくないわけではない。申し分ないほどにおいしい。



 しかし、一度あの料理を食べてしまうと…………



(物足りなく……感じてしまうな……)



 俺はそんなことを考えつつ、朝食を終え、体育祭へ向かうため、東一に向かった。









 ――――









 文化祭2日目。


 ついに始まった文化祭2日目。東一にたどりついた俺は、周りを見て唖然とする。


 1日目と変わった所と言えば、体育祭があること。ただそれだけなのだが……


「それだけで……こんなになるのか……」


 1日目も相当すごかったが、2日目はものすごい盛り上がりだ。

 1日目は人混みもすごかった。しかし、2日目はまるでゴールデンウィークの帰省ラッシュかのような人混み。

 まだ校舎に入っておらず、外に出店等が立ち並ぶ比較的空きやすい所なのにも関わらず、普通に文化祭としては楽しめないレベルだ。


「おーい! 剣斗くーん!! こっちこっち〜!」


 人の波に飲まれていると、その波の奥から声が聞こえる。藤崎剣斗の名前を叫んでいるあたり、どうやら俺を呼んでいるようだった。

 俺にとっては渡りに船。そちらに近づいて、その声を発していた女生徒のいる所までたどり着く。


「ほら行こ!! みんな待ってるから!」


「ああ」


 女生徒はそう言った後、俺にきびすを返してクラスメイトがいるであろう場所に向かって歩いていく。


 俺もそれに従い、なすがままに女生徒について行った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る