うまくいかない人生
誰かに見られていた。
その事実に気付いた時の俺の行動は早かった。足音がした方向にある曲がり角へダッシュする。
エリアマインドで浮遊させた物体に乗り込むのもアリかと思ったが、今いる場所は文化祭。もうすぐ1日目終了とは言え、まだ人はいる。人がいる場所で目立つ行動は避けたい。
そしてその曲がり角から、その姿を目にとらえた。
(やっぱ人間か……!!)
そこに映ったのは俺と同じく、黒い服に身を包んだ1人の人間。フードを被っているので顔も確認できないが、とても小柄であることは確認できた。
当然だが、俺が近づいて来ていることに気づいた人物も、体を後ろに向けて逃げ始める。完全な追いかけっこの体制が、今ここに完成した。
今までの俺ならば、必ずと言っていいほどこの追いかけっこに勝てなかっただろう。
元の俺の肉体は性能が低すぎて筋肉がまるでつかなかったので、このようなスキルなしの肉体性能の勝負では絶対に勝てなかった。
しかし、今の体は超絶エリートの肉体。そこらの肉体とは性能が違う。
(全く息切れしない!! これなら余裕で追いつける!!)
その証明に、謎の人物の後ろ姿がぐんぐん大きくなっていく。この調子なら目の前の人物もすぐさま排除し、何の心配もなく明日を迎えることができる。
しかし、相手もど素人と言うわけではない。まだ本気を出していなかったのか、相手のスピードがぐんぐん上がっていく。
(だけど……!)
相手のスピードがいくら上がったとは言え、俺の肉体の速度とほぼ同じ。離れているわけではない。このままいけば、体力切れがくる。
(捕まえる事に変わりはない……!!)
そんなことを思っているうちに、俺たちの追いかけこのステージは人がいる外の通りに突入。周りの人に怪訝な目で見られるが、今はそんなこと気にしていられない。目先のリスクよりその後のリスクを優先だ。
すると突然、人物が急に両足を曲げ、たち幅跳びのような姿勢を取り始めた。
「!?」
俺はその行動に対して思考を始める前に、肉体が反射的にブレーキを選んだ。
(まず……!?)
まずい。そう思う前に、さっきまで人物がいた場所から大きな轟音と砂埃が舞う。
必死に砂埃を払い、目の前を確認するが…………
そこに、人物の姿はなかった。
――――
「……くそっ、クソクソ!!!!」
あの後、周りを入念に探索したが、結局あの人物の姿は見当たらず、ただ時間を浪費するだけになってしまった。
今回に関しては完全にこちら側だけの損。まんまと罠にはまった結果になった。
腕時計をしていないので時刻はわからないが、時間もかなり経過してしまっている。周りは既に真っ暗、人の気配はまったく感じない。
ここまで時間が経ってしまえば、残り1人の教員もすでに帰ってしまっているだろう。
任務失敗。今回は間違いなく失敗した。
4人の教員を最後まで排除できず、教員を殺しているところを何者かに見られた。これだけ大きい失態も久々だ。
「……もう、帰るしかないか」
周りを見てみたが、ハカセのスチールアイの姿はない。いつものハカセならこういう時、颯爽と現れてくれるはず。なのに来ないと言う事は、既にハカセはなんらかの理由で俺からスチールアイを外したと言うことになる。
(しょうがない……明日の自分に任せるしかないか)
これではなんとかしたくても、なんとかしようもない。俺は自分にそう言い聞かせて、下校するために校門へ歩を進み始める。
空も暗く、空気もどんよりしていて、まるで俺の心を表しているようだった。
(不吉だな……何も起こらなかったらいいんだが……)
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