楽しい楽しいお祭りの始まり その終わり
「藤崎……剣斗?」
「ああ、知っていることだけでいい。あること全部話せ。そうすりゃ解放してやる」
何故かわからないが、この男は藤崎剣斗について知りたいらしい。
藤崎剣斗といえば、 Whyper《デュアルハイパー》や
超有名な兵士2人の遺伝子を受け継ぐ超有望株。養成高等学校に働く者なら知らない方がおかしいだろう。
(なんだ……? そんな有名人の情報なら、人づてにいくらでも入手できるはず…………)
「……まだか?」
「ぎっ……がっ……!!」
その言葉の真意を探るために考えていると、首を締め付ける手にさらに力を入れられる。
「わ、わかった……! わかっている事は話すから!! だから力を緩めてくれ! 頼む!」
このままでは喋りたくても喋れない。声帯があの世へ逝ってしまう。
「…………」
それは男側も理解していたらしく、首を絞める力を緩めてくれた。
「カヒュー……コヒュー…………言っておくけど、わかっている事しか話せないからな? それで解放してくれるんだな?」
「約束しよう」
俺は男に、改めて解放してくれることを確約させると、喉に無理をさせない程度にゆっくりと話だす。
話した内容は藤崎剣斗のスキルや身長体重、家族構成や両親の仕事など、誰でも知っているようなことから職員しか知らないような情報まで。包み隠さず全てを話した。
教師なのにそんなことをしゃべっていいのか? と思う人がいるかもしれないが、自分のしゃべった内密な事は家族構成などの頑張れば調べられる情報で、それを知ったところで何かができるとは思えなかったからだ。
「ほら……これで全部だ。もういいだろ」
「…………本当にそれで全部なんだな?」
全て話したにもかかわらず、まだ首を絞め続ける目の前の男にいらつきを覚えつつ首から手を離すように伝えるが、目の前の男は自分が本当に全部を言ったのか疑っているようだった。
「すべてを離さない理由がどこにある!? 俺は自分が持つ藤崎剣斗の情報は全て話した!! もう何も話すことはない!!」
「…………」
疑ってくる男に対し、今一度大きな声ですべてを話したと伝える。こういうタイプの人物はきつく当たると何をしでかすかわからないため、怒らず騒がず接するのが良いのだが、自分の置かれている状況が状況のため、そんなこと言っていられない。
「……そうか。わかった。もういい」
どうやら男も諦めたようだ。
「もっと早くそうしろ! はぁ……とっとと首を離して……」
「お前はもう死ね」
「…………へ?」
俺の耳に、とんでもない言葉が入ってくる。それはさっきまで冷静ではなかった俺の耳に面白いほどよく入り、それでいて強く耳に残る。そんな言葉だった。
「ま、まて、お前、今、なんていった?」
混乱する頭を必死に押さえ込み、聞き間違いだと言い聞かせ、男の言葉を聞くためにもう一度言葉を要求する。
「聞こえなかったか?」
それに対し、男は自分の耳に口を近づけて……
「お前はもう死ねって言ったんだよ」
それは、今の発言が聞き間違いではないことが証明されると同時に……
自分を怒らせるには十分な言葉だった。
「お前……約束を忘れたのか!!」
「約束? なんのことだ? 契約書でもあるのか?」
「……ッ! お前……!!」
男が今言ったのは、要するに「口約束だから聞きましぇ〜ん」というまるでヤクザかと思わせるかのような言葉。ドラマでしか聞いたことがないようなセリフだ。
「というか……お前が情報を渡さないからこうなってるんだろ?」
「は……? 言っただろはっきりと!!」
何を言っているんだこいつは。自分はついさっき、何も隠すことなく自分の知る藤崎剣斗のすべてを伝えた。それはまぎれもない事実だ。
なのにこの男は、情報を渡してないと言っている。
「言った! 俺は言ったぞはっきりと!! 俺の知るすべての情報を!!」
「いやいや……お前が言ったのは、俺も知ってる話だろ?」
「"俺の知らない話"を言ってないじゃん」
「は、はぁ……?」
「つまりお前が言っていたのは、"藤崎剣斗の情報"ではなく"藤崎剣斗の話"なんだよ…………てなわけでお前は終わりだ」
「ふざけんな……ふざけんな!! ふざけんな!!!! そんな屁理屈あってたまるか!!」
「というか……解放するって話の時点で気づけよ……そんなことするわけないだろ」
「クソッ……クソクソクソ!!!! お前みたいな黒いジャケット野郎に……!! お前……みたいな……」
黒いジャケットに見えない顔。それはたった1人の人物を想起させる。
「おま……えは…………」
「あばよ」
「お前は!!!!」
瞬間、後ろから何かが体に突き刺さり。
「黒……ジャケット」
自分の意識はそこで途切れた。
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