楽しい楽しいお祭りの始まり その10
これからの希望。これからの安泰。これからの期待。
その全てがしまった東京第一養成高等学校。自分はその門をちょうど1年前にくぐった。
自分が教師としてこの学校に通えるのも、神がくれた奇跡としか思えない。
自分は神に感謝しつつ、情熱を胸に、東一へと進んでいく。
華々しい運命になるはずだった。クラスとの熱い絆。みんなで掴み取る勝利。教師同士で生まれる恋……
来るかもしれないそんな可能性に、胸を膨らませ、自分の道はこれからだと思った。
そんなものが生まれるはずだったのに。
なんで……なんで…………
「あばよ」
こんなことになったんだ。
――――
「ふぅい〜今日はここまでかな!」
時刻は午後6時。既に学生の店は完全に閉まり、大人の販売している出店もところどころがたたみ始めた。職員による警備ももうすぐお役御免だろう。
(それにしても……養成高等学校すべてを集めると、あれだけの人数になるのか……東京派閥はやっぱり凄いなぁ……)
いくつもの高校が集まれば、それなりの人数が集まるのはわかっているが、そのいくつもの高校はそのすべてが東京養成高等学校。兵士の教育に特化したもはや訓練施設とも呼べる場所だ。
養成高等学校以外の普通の高校ももちろん存在する。だが、養成高等学校の方が受かる確率はもちろん難しいし、生まれ持ったスキルが大きく関係するのだ。
そんな将来有望な少年少女たちがこんなにもいると思うと、改めて東京派閥の層の分厚さを実感させられる。
(あと数十年は安心だな……がんばれ! 未来の救世主たち!!)
自分は心の中で、生徒たちに熱いエールを送りつつ、自分も家へ帰るために職員室へ向かおうとした時……
「あの〜」
「ん? どうされました?」
声をした方を振り向くと、そこにいたのは黒いジャケットにフードをかぶった身長が高めの人物。
顔がフードで隠れているため、見た目では男性か女性かは判別できないが、声色で男性だということは簡単に判別出来た。
「はい、それが……連れの子がいなくなってしまって……」
「!! それは大変ですね……!! 見失ったところまで案内してください」
「はい! こっちです」
自分は黒いジャケットの人物に連れられ、昼の時と比べると人が少なくなった道を歩いていく。
フードで顔が見えないので、かなり怪しく、不審者かと思ったが、子供がいなくなったと言われたら同行せざるをえない。目の前の不審者と思われる人物より、人命の方がはるかに大事だ。
「ここです!」
「ここですか……」
連れてこられたのは校舎裏。あみあみのフェンスで区切られ、草むしりなどがされている様子はなく、隅っこには何かの物体の上に緑の布がかけられていた。
文化祭の敷地は広く、外にも出店が存在するので、そこら辺で見失ったのかと思ったが、周りを見るに、そもそも人が少ないところで見失ったようだ。
……人が少ないところで見失った?
…………見失うのか? こんなところで?
自分がことの不自然さに気づいたときには。
「動くな」
自分の首は締め付けられていた。
「…………ッッ!!」
「動くなよ……少し聞きたいことがあるだけだ」
やられた。完全な不意をつかれた形。後ろから首を締められた。
(完璧に……仕組まれていたのか……)
どういう理由かはわからないが、自分を人気の少ないところに誘い込み、相手に隙を見せたところを狙われた。
さらにもう文化祭は終了間近のため、万が一の人との遭遇もほとんど見込めない。完璧なお膳立てをされていたのだ。
(だが……)
一見完璧に見える作戦だが、実はこの作戦、穴がある。
その穴とは、自分を拘束する手段だ。首を両手で締め付けるだけ。明らかに不十分だ。これならば簡単に脱出できる。
自分は、自分の首を締め付けている手を解こうとするが……
(!? 力強っ……)
ボンドか何かで接着されているのではないかと思うほどの強い締め付け。いくら力を入れても、振り解けるビジョンが見えない。
自分も力自慢と言うわけではないが、一応兵士の出。腕力はそこそこあるはず。
なのにはがせない。両手を使っても降りほどけない。
(クソッ……そういうスキルか!!)
単純な肉体増強のスキル。なるほど、確かにそれがスキルならば、確かにこれ以上の拘束手段はいらない。
「あんまり暴れるな……質問に答えれば解放してやる」
こうなってしまえば自分に対抗手段は無い。これ以上暴れても体力を無駄に使うだけだ。
自分はそれを理解し、体の力を抜く。
「……どうやら力の差を理解してくれたようだな……さて、質問に答えてもらうぞ」
「…………質問によるな」
東京派閥の機密情報などは教えられない。しかし、質問に答えなければ相手の機嫌を損ねてしまう事は確実。
ここはたいした質問でなければ答え、答えられないような機密情報ならば答えない。そういう風に行くしかない。
そういう風に決心を固めると、まるで段取りをしたかのように、すぐに言葉を発した。
「そんな難しいことじゃない…………藤崎剣斗について、知っていることを全て教えてくれ……それだけでいい」
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