楽しい楽しいお祭りの始まり その9

 午後の5時。


「はい! じゃあここまで! お疲れ様でした!!」


 先生がみんなに向かって終わりの合図を伝える。今までが今までだったので、業務中も何かあるかと思ったが、結局、従者喫茶に戻った後は、何事もなく仕事を終え、今日1日のスケジュールは終わりを告げた。


 今考えれば当たり前だ。業務中に犯人に関する情報を聞けること自体が稀。期待する方がよくない。


「あざした〜」


「〇〇ちゃん! 一緒に帰ろう!!」


「私らはもうちょっと回ってこよー!!」


 メイド服や執事服から、いつも通りの学生服に着替えたクラスメイトたちは、今までの業務時間が嘘のように騒ぎ始める。

 気怠げに家に帰ろうとする者もいれば、中の良い友達と一緒に帰ろうとする者。まだ続く文化祭を楽しもうとするものもいてさまざまだ。


「あ! 剣斗くぅ〜ん!!!! 一緒に帰ろ!!」


 そして、俺にももちろん、女子達からお呼ばれがかかるが……


「ごめん、俺この後先生と話すことがあるんだ。また今度ね」


 もちろんだが、適当なことでお誘いを拒否していく。俺はこの後、ハカセから職員室での結果を聞く必要がある。女子達とノコノコ一緒に帰るわけには行かないのだ。



 …………ただ、1つ言いたいことがあるとするならば。



(女子と一緒に帰ってみてぇ〜!! みてぇよ…………)



 東一時代、女子に誘われる機会などほとんどなかった俺にとっては、一つ一つの誘いがまるでダイヤモンドのように輝いている。それを拒否するのは精神的にきつい。陽キャ生活を完全に棒に振っている。


 もしかしたら、そのままいい雰囲気になってお持ち帰り……なんてこともあるかもしれない。


(こうやって陽キャどもは女を手に入れているのか……!! なんて卑劣なんだ!!)


 陽キャどもへの怒りをさらに深めつつ、自分の成すべきことを成すため、歩みを止める事なく、外の廊下へ出た。


「次どこ行くー?」


「次、あれ買いに行こ!!」


「ママー、りんご飴食べたい!!」


 廊下は未だに賑わいを見せており、その勢いはとどまることを知らない。

 ついさっき、仕事を終えたとは言ったが、文化祭が終わったとは一言も言ってない。


 そう、まだまだ文化祭は終わらないのだ。終わったのは学生の出店のみ。学校側が用意した大人たちの出店はまだ終わることはない。


 文化祭なんだから学生だけんじゃないのか? と思う人もいるだろう。


 しかし、この文化祭は規模が違う。敷地も人もつぎ込んだ資金も、何もかもが他の文化祭とは段違い。がめつい大人たちがこんな機会にでしゃばらないわけがない。


 まぁそういうわけで、まだまだ文化祭は終わらないわけだが…………


(そんなこと俺には関係ない。早くハカセのところに行かないとな……)


 俺は小走りで、廊下から外に出て、校舎裏に入る。もちろん校舎裏には人がいないし、薄暗い。密会するにはもってこいの場所だ。


「いるんだろハカセ……誰か来るかもしれないし、とっとと出てきたらどうだ」


『ほいほい……まぁ、ここならいいじゃろう……さて、職員室で手に入れた情報を伝えるぞ』


 案の定、ハカセの声が俺の耳に入り、目の前にくしゃくしゃの紙でできた拳ほどの玉が現れる。一瞬何が起きたのかと思ったが、紙でスチールアイを包んでいるだけの様だ。


 それ以外は思った通り、俺のことは監視してくれていたらしい。


「ああ、頼む」


『うむ……率直に述べると、狙うべき人物は4人じゃ……ほら、紙をとれ紙を』


「紙って……スチールアイを包んでるくしゃくしゃのやつか?」


『そうそう、それじゃ』


 ハカセにそう言われ、俺はスチールアイから紙をはがし、手元で広げる。


(これは……!!)


 そこにあったのは、狙うべき4人の顔写真と名前、血液型にスキルと、詳細な情報が記載されていた。


『伸太』


「………………」


『その4人は全員が職員じゃ……じゃが、実践経験はないのがほとんど……やれるな? 黒ジャケット』





 俺は瞬時に、ハカセの言葉の意図を汲み取り……





「…………了解した!」





 その黒いジャケットを纏った。

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