楽しい楽しいお祭りの始まり その6
「こちらコーヒーとパフェでございます……」
ついに始まった勤務時間。うちのクラスはただのメイド喫茶ではなく、執事も入れてのメイド喫茶である。
名付けて従者喫茶と名付けよう。
さて、そんな感じで営業している従者喫茶だが、お客さんの評判は非常にいい。やはりその特性上、男が喜びやすいメイドだけではなく、女も喜ぶ執事を取り入れたのが影響しているのだろう。男狙いでも女狙いでもなく、両方狙っていて、それが成功しているのは大きい。
そんな商売繁盛が止まらないところで働いている俺はと言うと…………
(キッッッッッッツ!!!!)
精神的にやられていた。
体力的にはまだまだ残りがある。この程度の仕事など、今までの殺し合いに比べれば豆粒のようなものだ。
しかし、今まで俺が体験してきたのは、肉体的なダメージがほとんど。精神的なダメージはそこまで負っているわけではなかった。
(周りの視線……話しかけてくる女……ここまでの重圧だとは…………)
東一時代ももちろんバイトしたことがある俺だが、ここまでの重圧を受けた事は無かった。
理由は当然、この肉体。
この肉体のルックスやスタイルのせいで、執事服が本物かと思うほど似合う。注文を聞きに俺が来た時と、他の人が来た時のリアクションが段違いだ。
もう引っ張りだこも引っ張りだこ。俺に対しての「すいませーん注文いいですか」の声が止まらない。
(……きつい)
早くも弱音が出始めた。そんな中で1つの考えが頭に浮かぶ。
(……どうせ元に戻ることが目標なんだし、藤崎剣斗の評判など正直どうでもいいんだよな……いっそのこと外に出ちまうか?)
俺の中で悪魔のような考えが浮かび始めたその時。
「すいません。注文いいですか?」
またしても聞こえた悪魔たちの声。俺に労働を強要する悪魔たちだ。現実世界だけでなく、俺の脳の思考の邪魔もしてくるのかこの悪魔どもは。やはり東京派閥は恐ろしい場所だ。
「はい……ご注文をお伺いしてよろしいでしょうか」
先ほどの声の場所に近づくと、そこにいるのは2人のおっさん。俺がメイド喫茶にいた時の2人と同じように、高価そうなスーツを見にまとっている。この2人もメイド喫茶の時の2人と同じように女漁りが目的だろうか。
確かにここにも女はいるが、呼び出したの俺。
…………ん?
女漁りが目的かもしれない相手に……呼び出された?
ということは……つまり…………
俺狙い?
背筋がゾッと震える。別に藤崎剣斗が女に目覚めようがホモに目覚めようがどうでもいい。
しかし、今は俺の肉体なのだ。この肉体の中に俺がいる状況でそんなことされたら困る。
俺は将来、絶対にそういうお店に行って卒業すると決めているのだ。おっさんで卒業など絶対に許さない。
いやまて、ここまでいろいろ考えてきたが、すべては机上の空論に過ぎない。何の確証もないのにこんなことを思うのは相手に失礼だ。
そうだ。普通に腹を満たすために適当に俺を呼んだ可能性だって…………
「お、君なかなかイケメンだね? 歳いくつ?」
(そっちの人間だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)
魂の叫び。まさかの……いや、やはりそっち派。
手足が震える。脳が危険信号を送る。今まで以上の緊張感。気のせいか、レベルダウンよりも、あの牛よりも目の前の2人のおっさんが恐ろしく感じる。
さっきまでは精神的なダメージを負っていたが、今回は精神的なダメージだけでなく、肉体的なダメージも与えられそうな予感がする。
ダメだ。それだけはダメ。そういう趣味の人もいるのはいいが、俺は違う。俺は女が好きなんだ。
それだけは絶対回避。そんなことをされるなら死んだほうがマシだ。
「すいません……そういうのはちょっと……」
「ええ? いいじゃんちょっとくら「おい」……はいはい。ごめんね? 迷惑かけちゃって」
「は、はぁ……」
2人のおっさんのうちの1人が、俺に対して積極的に話しかけていたが、もう1人が注意喚起をするとすぐに引き下がった。
(主従関係ってやつか!? やっぱりそうなのか!?)
頭の中で勝手に盛り上がりつつ、俺は話を進めていく。
「すいません。そろそろご注文の方を…………」
「……ああ、すまない……では、コーヒーをもらおうかな」
「俺はアイスティーで! 愛情たっぷりで!!」
「…………かしこまりました」
俺は聞こえた言葉にあえて突っ込まず、メモにコーヒーとアイスティーとだけ書いてその場を後にする。
…………藤崎剣斗よ。強く生きろよ。
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