楽しい楽しいお祭りの始まり その5

「着いた……ここだ」


 俺はあのまま歩を進め、ついに職員室に到達した。職員室はさすがに他のような装飾をするわけにはいかなかったのか、よくある職員室と変わらない。


『よし、着いたな』


「しかしよハカセ……中にはもちろん職員がいるぞ? どうやって潜入するんだ?」


 東京派閥本部に潜入した時のように、深夜で誰もいないと言うわけではない。中にはしっかりと職員たちが仕事をしている様子が見える。職員たちの目をかいくぐり、お目当ての書類をピンポイントで引っ張り出すことなど、俺のスキルでは不可能に近いだろう。


『まぁそこは任せろ……このワシにな!!』


 ハカセは急に大声を出した後、声が聞こえなくなる。どうやらスチールアイをどこかへ飛ばしたようだ。


(…………ハカセって結構キャラ崩れがちだよな)


 そんなことを考えながら、職員室の前で待機する。

 ここで少し行動してもいいが、あのハカセが任せろと言ったのだ。ここでむやみに行動しては邪魔になるかもしれない。次のハカセの言葉があるまで待機だ。









 ――――









「…………遅くね?」


 ハカセに任せろと言われてから、すでに30分以上経過している。

 あまりにも長い。このままではお目当ての書類はおろか、職員室の侵入すらできないまま終わってしまう。


(……くそ! ハカセを信じたのが馬鹿だったか!!!!)


 もう我慢できない。三日間しかない時間の中で、1日を棒に振ってしまうと言うのはあまりにも痛手。それだけは絶対に避けなくてはならない。



要するに…………ええい!! 我慢ならん!! 俺は行くぞ!!!!



 俺はハカセを待ちきれず、職員室に向かって一歩を進めた瞬間…………


『おーい、終わったぞ』


 耳から入ってくる老人の声。一応周りを確認してみるが、近くに老人はいない。間違いなくハカセのスチールアイからの声だった。


「……おう。そうか」


『……? どうしたんじゃ?』


「いや……何でもない」


 何言ってるんだ。ハカセが俺をほったらかしにするわけないだろ。馬鹿か。3秒前の俺をぶん殴ってやりたい。


「……で? 潜入する作戦は思いついたのか?」


 元々、潜入する方法が思いつかないと言う俺に対して、ハカセは任せろと言ってどっかにいったのだ。

 潜入する方法を用意しているはず。俺はそれを聞いて実行するだけだ。


『ん? もう潜入は終わったぞ?』


「俺は潜入するためならなんでも…………へ?」


『終わったぞ』


「……終わったの?」


『終わったぞ』


「…………」


『終わったぞ』


「知ってるよ」


 俺いらないかもしれない。









 ――――









 てくてくと廊下を歩いていく俺。その姿は、端から見ればお祭りなのに1人で店を回るボッチだ。


(ハカセ……ほんとに終わったんだろうな?)


 ハカセによるともう終わったらしいので、帰っているわけだが……いかんせん不安だ。


 かんじんのハカセは情報を整理したいらしく、文化祭が終わった後に結果を実際に会って話すらしい。

 ……と、いうわけでここからはハカセの助言は無い。自分の力で行動しなければならないわけだが、そこら辺は大阪で鍛えられている。ハカセの助言なしでやっていける。


「時間はっと…………」


 時間はもうすぐ12時になる。つまりは午後、俺の勤務時間だ。今回は走ればギリギリ遅刻せずに我がクラスの店にいけるだろう。


 俺のその予想は当たり、難なく12時前に我がクラスの店に到着することができた。

 俺はなんら躊躇することなくドアを開ける。中ではクラスのみんなが必死になって仕事をしており、お客に対しておもてなしをしている様子が見て取れた。


「あっ! おーい剣斗! こっちだ!」


 俺はクラスの1人に呼ばれ、それに従って歩いて行く。周りに迷惑をかけないように常に無言。暗黙の了承というやつだ。


「今回は遅刻せずこれたな!! いつものお前が戻ってきたみたいで安心したよ!」


「ああ、朝は悪かったな」


 こいつは文化祭と体育祭のことを教えてくれたやつだ。教えてくれたところから見ると、藤崎剣斗とはそこそこの友人関係にあったらしい。俺に対しての態度も他と比べてかなりフレンドリーだ。


(暑苦しいやつだな……)


 友達ができたことなどほとんどなかったので、暑苦しい感じが苦手とか得意だとかは言えないが……多分苦手だ。今わかった。


「ほら! さっさと着替えて接客しに行くぞ!」


「……ああ」


 俺たちの店はメイド喫茶。それだけ聞くと目新しさはないが、他とは違う点が1つ。



それは…………



「お帰りなさいませ……ご主人様」



 俺たち男……執事もいると言う点だ。

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