楽しい楽しいお祭りの始まり その3
ハカセに言われた職員室への潜入。俺はそれを成すため、ついさっきいた廊下からすぐに別の校舎の中に入り、職員室への歩を進めていた。
無論、校舎の中はいつもと違い、学生たちが出した店で賑わっており、よくあるメイド喫茶やお化け屋敷、ちょっと趣向を変えた猫耳喫茶など、手作り感あふれる廊下へと進化している。
気のせいか、廊下に漂う香りも甘く、若い臭いと言えばいいのだろうか、嗅いでいて気持ちのいい匂いになっている。
(……そんなこと関係ないな)
普通ならば、ここで少し寄り道をすることもあっただろう。
だが今は違う。俺はこの学校の生徒でもなければ、藤崎剣斗でもない。指名手配犯、田中伸太だ。今日の犯罪を犯すため、メイド喫茶に目もくれず、大きな歩幅で前に進んでいく。
しかし、俺の目にはもちろんのこと、魅力的な服装を着た女性生徒たちが目に映るわけで……
(……くそっ!! この任務を終えたらすぐにでも入店してやる!!!! 絶対だ!!)
俺は謎の決心を胸に秘め、常に大股で賑わう廊下を歩いていく。
(周りはいいな……悩みが少なそうで)
「あのー! すいませーん!!」
そんなカスみたいな思考回路を巡らせていると、横から声をかけられる。声の高さから、そちらに目を向けずとも女子生徒であることがわかった。
「…………」
そちらを無言で振り向くと、声をかけてきたのはやはり女子生徒。メイド服に身を包み、思わず目を背けてしまうようなまぶしい笑顔で語りかけてくる。
「そこのイケメンなお兄さん! うちでお茶して行きませんか!?」
(うおっ…………!!)
言葉全てにビックリマークがつきそうなほんとに元気ハツラツとした言葉。もともとインドア派だった俺には刺激が強すぎる。
メイド服、同い年の女子生徒、元気ハツラツな言葉。
俺のやるべき事は1つだけだった。
「…………」
「…………あ、あの〜……お兄さん?」
…………気づけば、メイド喫茶への入り口をくぐっていた。
――――
伸太が呑気にメイド喫茶に入り浸っている頃……
「……まぁ、見つからんのう」
ワシ、ドクトルは東一の近くにあるカフェで一息ついていた。
ワシは東京に残っている間、寝る間も惜しんで"彼女"について調べてきた。
分かった事は、東京にいる可能性が高いことと、時間的に"彼女"が起動しつつあることの2つだけ。めぼしい情報は手にすることができなかった。
(そんな中、伸太に身体的な異常……体の入れ替えが起こった)
元々、伸太とは何かしらの運命的なものを感じていたのだ。
"彼女"を探すにあたって、伸太との出会いは革命的だった。
東京派閥に手を出すなんて、自分1人では絶対に不可能。どうにかして東京派閥の目をかいくぐりつつ、"彼女"を見つけるという鬼畜プレイを強要されていた。
そんなところに現れた救世主、伸太。ヤツの登場はワシの行動を大きく変えた。
レベルダウンの崩壊、警察の虐殺、ウルトロン強奪に神奈川派閥の街を破壊、黒のポーン撃破というイージースキル保持者とは思えないほどの華々しい成績を上げた。
そして今回、派閥を揺るがすほどのダメージを与えた伸太の異常。これに何かしらが関わっていないわけがない。
(伸太と一緒に行動すれば、"彼女"への何かがつかめるかもしれない…………!!)
ワシは決心を胸に、コーヒーの入ったカップをぐいっと飲み干した。
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